書いてる途中2

葉無
·

「お願い!!今までのこと、全て謝るから命だけは…」

「や、やめろ!殺さないでく…」

「□□□□□□□」

しんしんと雪が降る中、黒いロングコートと帽子を被った男は、ある村を目指していた

「さっむ〜…ああ!なんでも屋さん本当にすぐ来てくれたんですね!!」

少しオーバーサイズにも見える程、分厚いコートを着ている男性はそう言って、なんでも屋の元へ駆け足で、近づいてきた

「はい。緊急の依頼ですから当然」

「依頼内容は、殺人事件があったということ。でしたが、現場は何処でしょうか?」

「はいそうです…すぐ案内しますねこちらです。あっここら一帯、今は凍ってますが、沼のような場所があるので、お気をつけて」

「わかりました」

そう言われてからは、ほとんど会話はせず、案内されるがままついて行く。現場は村の中だと思っていたが、どんどん村から離れていき、村の近くにある森の所まで来た

「現場はここです」

連れてこられたのは、かなりボロボロで古い家の前だった

軽く見ただけでも、長い間手入れがされていないような建物だ

「もう中に入っても?」

「はいどうぞ、僕はここで待ってますね」

案内人は、外で待機していてくれるようだ

|私《わたくし》はペンキが所々剥がれている扉のドアノブを捻った

建て付けが悪いのか、大きくギィィと音が鳴る

開けた瞬間、鉄が錆びたような臭いが広がった

あまりにも強烈な臭いで、|私《わたくし》は咄嗟に服の袖で鼻を押さえた

外で待機していた、案内人は臭いだけで嘔吐いてる。吐かれたら困るので、吐かないことを祈ろう

捜査しなければ進まないので、臭いを我慢しながら、家の中を確認する為にスイッチを押したが、電気が止まっているのか点かず、深夜なのでほとんど中が見えない

仕方ないので事前に持ってきていた、ランタンで家の中を照らした

床は血の海、壁には大量な血が飛び散っている

部屋には、死体がいくつも転がっている

少なくとも10人は死んでいるだろう

近くで確認は出来てないが、死後数時間は経過しているはずだ。だがまだ床の血が乾ききっていない、血の臭いは凄いが、死臭がしないということは、長くても1日しか経っていないようだ。暗くて調べるのが困難なので、死因などしっかりとした調査は日が昇り次第しよう

|私《わたくし》は現場を後にした

「うっ…気持ち悪い……なんでも屋さん、なにかわかりましたか?」

吐かないように、我慢している案内人に、現場の状態を聞かれた

「見たところ、複数人殺害されてますね。ですが、まだ殺されてからそこまで時間が経ってないようです」

「他にわかることって、ありますか?」

「それは日が昇ってから調査しなければ、わかりませんね」

「そうですか…」

「しかし…こんな村外れな場所にある家で、殺人があったなんてよく気づきましたね」

「実はその家に住んでいた夫婦、村の人間達からかなり借金していて…1人あたりの金額も凄いんですが、その夫婦に貸している村人も多いんです」

「なので、よく取り立てに来ていたんですよ」

「それは、貴方だけですか?」

「いえ、村人達が代わりばんこに来てました」

「皆、最初は信頼して貸していたのですが、全く返すような素振りすら見せなくて」

「しびれを切らした最初に貸した、村の中では温厚で優しいと言われてる若い村人が、家まで取り立てに行ったんです」

「そしたら、旦那の方が逆ギレしてきて…顔の骨にヒビが入る程、殴られて帰ってきたんです」

「その一件で村の皆で話し合って、貸している村人の代わりに、力仕事をしている力に自信がある男達が、取り立てに行くことになったんです」

「なるほど。それで?」

「流石に旦那の方も、力仕事で筋肉が凄い村人には勝てないのわかってか、ほんの少しずつですが返すようになりました」

「そして今日は取り立て日で、担当は僕だったんです」

「そうだったんですか。ってことは貴方が第一発見者でいいんですね」

「はい。そうです」

案内人が第一発見者か…ってことになると殺された人間が、何人居たか聞けるな

「なら、家を覗いたってことですよね?何人殺されてるかわかりますか」

「あぁ〜…実はあまりにも酷い光景で、動揺してしまってほとんど覚えてないんです…」

覚えてないか。一般人ならあんな光景を見て、動揺しない方がおかしいので、仕方ない

「そうですか。なら先程の話に戻りますね。今日、貴方は取り立てに来たと、言いますが、失礼とは思いますが、先程の話を聞く限り、貴方が力仕事しているようには|私《わたくし》には思えないんですが…」

案内人は、コートのせいで、わかりにくいが、顔と手を見る限り、かなり細身で肌も白い、外で力仕事をしているようには見えない男だった

「あはは…ですよね…見た目だけなら僕もそう思います。ですが、一応村の中では1番強いんですよ」

「そうなんですか?」

「はい。昔、ここからはかなり遠いんですが、住人の全てが武術に精通している島に、修業するために行ってたので」

「あぁ、あそこですか。|私《わたくし》は行ったことは、ないのですが2番目の兄が行ってましたね」

「本当ですか!なら時期によっては、なんでも屋さんのお兄さんと、手合わせした可能性があるってことですね!」

案内人は、2番目の兄がその島に修業しに行っていたという話をすると、事件のことをなんか忘れたかのように、とても嬉しそう島に滞在してた時の話をしてきた

|私《わたくし》は武術か何か知らないし、全く興味がないので聞き流していたが

「わぁ〜!すみません…つい嬉しくて関係ない話ばかりを話してましたね」

我に返ったのか案内人は謝ってきた。興味がない島での話が終わったので安心した。これで事件の話が出来る

「事件の話に戻りましょうか。なんでも屋さんにまだ伝えてなかったんですが、この家には生存者も居ました」

「生存者ですか。何名ほど?」

「5、6歳程度の痩せた子供が2人です」

あの惨劇が行われた場所で、わざわざ子供だけ生かしておくのは少しおかしいなと、思いながら案内人に、一旦日が昇るまでは村に戻るということを伝えた。戻ってる道中で、その子供達の話を聞くことにした

「2人とも子供にしてはとても寡黙で、表情はほとんど変わらないんですけど、少しでも大きな音や声がする度に怯えていました」

「あんな所にいたので、お腹も空かしてるだろうと思って、食事も色んな料理を用意したんですが、置かれていたパンの中でも硬い物を2人で分け合い、それ以外は食べませんでした」

「警戒心が強く、2人に触れられなかったんですが、見た感じ怪我はしてないみたいで…でも返り血を浴びていたので、村の女性がお風呂に入れようとしたら「「自分達だけで入れる」」と、断れて綺麗になった後も、僕達に近づこうとせず2人、くっついて部屋の隅にいました」

「そうですか」

「他には何かありましたか?」

「何かあったかですか…現状の子供達についてはそれだけですが、別の件で子供達に、問題があるんです」

「問題とは?」

「はい…あそこに居たってことは、あの夫婦の子供ということなので、そのせいで誰も引き取ろうとしないんです」

「へぇ…そうですか」

それは|私《わたくし》にはとてもいい情報だ。丁度跡取り候補を探していたのだ。まだ|私《わたくし》は16歳だが、跡取り候補でも弟子をとるより子供の頃から|私《わたくし》の仕事を教え、育てたかった。村人達が引き取るつもりがないのなら、|私《わたくし》が子供達を引き取っても文句はないだろう

「その子供達の性別は?」

「1人は男の子で、わかりにくかったんですが、風呂を入れようとした、村の女性から聞く限り、もう1人は女の子みたいです。顔つきがそっくりなので年子ではなく双子かと」

なるほど双子か、双子なら仕事をやらせても顔がそっくりなところを利用することも出来るだろう。いい情報を手にいれたと思いながら|私《わたくし》は眼鏡の位置を直した

「今、その子供達は何処に?」

「2人とも、今は村長の家で預かってます」

「なら、子供達から何があったのか、聞きたいですし、村長さんからもこの件に関する話も聞きたいので、村長さんの家に向かいましょう」

「わかりました。なら向こうに村長の家があります。村長は事件があったので、まだ起きているはずです」

案内人の指差す方向には、1軒だけ、まだ灯りがついている家があった

案内人が言う通り、村長だけでも起きているだろうし、もし子供達が起きていたらそのまま話を聞こう

「村長、なんでも屋さんに、あの家を見ていただきました」

「そうか、案内ご苦労だったな」

「いえ、1番最初に見つけたのが僕だったので」

思った通り村長は、起きていたみたいだ。見た感じ、歳は50後半ってところでしょう

「村長さん初めまして、今回の事件を調査しに来ました」

「あぁ、あんたが最近噂のなんでも屋か。思ったより若い兄ちゃんがやってたんだな」

「はは、よく言われます」

元は、兄2人としてたが、今は1人でやっているから、兄達としてた時より「想像より若い」は言われ慣れている。|私《わたくし》が依頼人って立場になったら|私《わたくし》もそう思うだろう

「兄ちゃん、名前はなんていうんだ」

「|私《わたくし》はコムジョンと申します」

「コムジョンか。一時の間だがよろしくな」

「はい。調査が終わる時までの間、お世話になります」

仕事場がここからだと少し遠く、寝に帰る為だけに毎回戻るなんて非効率的なことをしたくないので、この事件が解決するまではこの村に滞在することになっている

村長にも、挨拶したのでそろそろ生存者である子供達に会いたいのだが、見た感じこの部屋にはいないようだ

「子供達がいると、聞いたんですがもう寝ていますか?もし起きていたら話が聞きたかったんですが」

「あの子供達なら、今は寝ている。がしかし、寝室に連れて行ったがベッドを使わず、毛布だけ取って部屋の隅で、お互いに寄り添う形で寝ているな」

「そうですか。では起きてきたら、教えてください」

「わかった。コムジョンさんも遠くから来てくれたんだろ?少しでも早く休んでくれ」

「あの…もしよかったらお休みする前に、紅茶でもどうぞ」

村長の奥さんらしき人が、紅茶を持ってきてくれた

「ありがとうございます。頂きます」

確かに遠いとは思うが、いつもの依頼での移動距離に比べたら、かなり近場だ

頂いた紅茶を飲みながら、今回の事件について考えた

まだ詳しく死体の状態は、見てないが、あの血の量からして斬殺か銃殺で死んだはずだ。斬殺だと死んだ後すぐにでも動脈を切られてるか、銃殺ならひとりに対して、何発か撃たれてると考えている

早く日が昇ってくれないと、死因も正確な殺害された人間の数も確認出来ないし、子供達から話も聞けない。仕事が全く進んでない状態での、待たなければいけない時間が1番嫌いだ

|私《わたくし》は普通の人間より必要な睡眠時間がかなり短く、長く寝てもその寝ている時間で楽な仕事が片付けられるので、眠ることが好きではない。なんなら嫌いと言ってもいい

だが、他にすることがないせいで、ここは眠るしか選択肢がないようだ

そんなこと考えていたら、紅茶を飲み終えていた

「ご馳走様でした。紅茶美味しかったです」

「お口にあってよかったわ」

「村長さん、お言葉に甘えさせて貰って、|私《わたくし》は少し休ませて頂きますね」

「おう、子供達が起きたら、コムジョンさんを起こしに行くから、安心して眠ってくれ」

「ありがとうごさいます。では失礼しました」

「あっ村長、僕も自分の家に帰りますね。先に休ませていただきます」

「お前も早く寝ろよ。明日もコムジョンさんの手伝いして貰うんだから」

「はい。わかってますとも」

「では、失礼しますね」

|私《わたくし》は案内人と共に村長の家から出た

案内人は|私《わたくし》が泊まる予定の場所も、案内してくれた

「ここが、なんでも屋さん…いえコムジョンさんが泊まる家です」

職業名で呼んでもらっても構わないのに、わざわざこの男は、言い直してまで名前で呼んできた

そんなこと今は、どうでもいいか。泊まる家はというと

必要最低限の家具しかないが、綺麗に掃除がされており、客人用というよりかは、まるで誰か住む前提に整えられている家のようだ

「ここ、元々住む予定だった人が突然、連絡が途絶えてしまい、建ててしまったからには空き家に出来ないって、ことで客人用の家になったんですよ」

なるほど。だからこんなにも、造りがしっかりしていたのか

「その住む予定だった人からは、お金は貰っていたんですか?」

「…一応前払い分だけは頂きました」

「その感じ、後払いで良かった分は払って貰ってないってことですね」

「はいぃ…こちらが依頼してきてもらったのに、コムジョンさんには悪いですが、ここに泊まる料金を取らせていただいてよろしいでしょうか…」

「それは、別に構わないですよ。ですけど、元々住む予定だった、人間は捕まえる必要がありますね。別の件って形で依頼して頂けたら、そちらの仕事もさせて頂きますよ」

「今はとりあえずあの大量殺人の件が終わってから、お願いしますね」

確かに、あの事件が最優先だ

「はい。わかりました」

「それじゃ、僕はこれで」

「ええ、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

案内人は、そう言って自分の家に帰っていった

|私《わたくし》は、その家に用意されていた、テーブルの前にある椅子に座ると、日記を取り出した

この日記には、いつも何があったか記録している。依頼のことや、日常のことまで全て書き下ろしている

2番目の兄からよく『お前は人と感性がかなりズレている。お前の悪いところは全て、そのズレてる感性のせいだ』と言われ、ならどうすればいいと聞いた時に、『あぁ〜…何かあったら、日記にでも書いて、客観的に見れるようにしろ。そうすれば、少しはマシになるだろうよ』と言われてからは、毎日寝る前に書くことにしている

だが、客観的に見ても|私《わたくし》が悪いところがあるなんて思えない。なんならそれに合わせられない人達が悪いと、読み返す度に思っている

よし。今日の事件のことも、書き終えたので、寝ることにしよう

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ドンドンとドアをノック…いや、少し殴るかのような叩くことが聞こえる

眼鏡を掛け、まだ覚醒しきってない頭でドアを開けた

「どちら様でしょうか」

「コムジョンさん、おはよう。早朝から悪いな。子供達が起きたから知らせに来たんだ」

ドアを叩いてたのは、村長だった

「村長さん、おはようございます。そうなんですね。なら着替えてくるので、少しお待ちを」

「ああ、俺は家に戻ってるから、準備が出来たら来てくれ」

「わかりました」

|私《わたくし》は手短に身だしなみを整え、村長の家に向かった

外に出ると朝なので、他の村人もちらほら外に、出ている

この村に泊まる人間がいるのが珍しいのか、村人達はこちらを見てくるので、愛想笑いしながら手を振ると挨拶してきた

他の村人にも手を振って挨拶をしていると

「にいちゃん、どこの人?」

この村の子供らしき者にいきなりコートを引っ張られた

|私《わたくし》は、子供と目線が合うように、片膝をつくようにしゃがんだ

「|私《わたくし》は、ここから少し遠いところから、来ましたよ」

「そうなんだ!!いつまで、ここにいるの?」

子供はすぐ質問をし、会話が終わらないので嫌いです

「そうですね…依頼が終わったら帰りますよ」

「いらいってなぁに?」

はぁ…こんなことも説明しないといけないのですか

「依頼とは、人に頼まれて代わりに、仕事するようなことです」

「へぇー、そうなんだ!」

「ねぇねぇ、にいちゃんって…」

「こらっ!あんた、お客さんを困らせたらダメでしょ!」

先程から話しかけてくる、子供の母親らしき人が来た。もっと早く止めに来て欲しいところだ

「すみません、うちの子が仕事の邪魔しちゃって…」

「いえいえ、大丈夫ですよ。僕、またね」

「またねー!!」

面倒事も終わったので、早く村長の家に向かおう

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村長の家の前には、昨日の案内人が居た

「あっ!コムジョンさん、おはようございます」

「おはようございます。何故、貴方がここに?」

「村長から、『こんなことありえないと思うが、もしコムジョンさんがこの家がわからないってなったら、困るから目印になるように』って言われて…」

「そうですか」

わざわざ、案内人だった男を目印代わりに使うとは…|私《わたくし》が一度来た家を覚えてないと思われてたのは、心外ですね。|私《わたくし》の1番上の兄じゃないんだから、そんなこと絶対ありません

「村長、コムジョンさんが来ました」

「お邪魔します」

「早かったな。コムジョンさん。もう少しゆっくりでも、大丈夫だったんだぞ」

「そういう訳には、いきませんので」

本当にそういう訳にはいけない。早く事件を解決して、とっとと帰ってしまいたいんだから

ああ、でも例の子供達のことは話さないといけない

「子供達は、何処に?」

「子供達なら、今朝飯を食わしてるところだ」

村長の後ろの部屋を見ると、長髪の子供と少し短髪な子供が、大人しく並んで座って、パンを食べていた

「警戒心が強いが、とりあえず朝飯だけでも、食わさないといけないからな。色々言ってやっと食わせられたんだ」

「あの状態のことを、飯食いながらする訳にはいかねェから、コムジョンさんも一緒に飯でもどうだ?」

|私《わたくし》は、朝はコーヒーか紅茶で、済ましているが、断ったら印象も悪いし、たまには食事をするのもいいでしょう

「じゃあ、頂きますね」

|私《わたくし》は、わざと子供達の前の席に座った

子供達は、いきなり知らない人間が、目の前に座ってきて警戒してるが、こちらには関係ない

|私《わたくし》が知りたいのは、あの場所で何があったのかだから

「はい。こちら、コムジョンさんの分です」

奥さんが|私《わたくし》用に盛り付けられた、朝食とサラダ、スープ、パンを持ってきた

普段朝食を摂らないので、わからないが、一般的な朝食なのだろう

渡された朝食を口にしながら、子供達に話しかけてみた

「やあ、君達、お名前はなんて言うのかな」

子供達はこちらに警戒して、言ったことを無視をしている

青い長髪の子供は|私《わたくし》を少し睨んでいる様子もあるが、赤い少し短髪な子供は不安そうな顔をして、パンを持ってない手で、青い髪の子供の服を握っている

これは想定内だ

「君達は、パン以外は食べないのかい?」

昨日、聞いた話通り子供達はパンしか食べずに他には手をつけてない

まさか、この歳で、料理に毒が入ってるなんて思ってはなさそうだが、一応試しにやってみるか

|私《わたくし》は子供達の朝食をひとくちずつ食べた

子供達は少し驚いた顔でこちらを見ている

「君達、毒味はしたから、安心して食べて大丈夫だよ」

その様子を見て、子供達はお互いの顔を見て頷いた後、パン以外の朝食に少しずつ口をつけ始めた

「驚いた、まさか毒が入ってるかもしれないと、思って食べなかったなんてな」

村長は頭に手を乗せて、驚いている

「私も、そんなこと考えてたなんて、思いませんでしたわ」

村長の奥さんも、口に手を当てて驚いている

「コムジョンさん、なんでわかったんですか?」

案内人も、一緒にご馳走になっており、朝食を食べながら聞いてきた

「なんとなくですよ。なんとなく」

仕事上、毒が仕込まれてることがある。その経験から、勘でこの子供達もそう思ったのではないかと、考えただけだ

その勘は、当たったらしく、毒が入ってないとわかってから、子供達は他の料理にも手をつけ出したんだ

何があって、毒が盛られてるなんて思うようになったかは、この事件にも、関係しているかも知れない。

「案内人さん…」

「案内人だと、言いにくいと思うので、カイトでいいですよ」

人の名前を覚えるのは、面倒臭いから好まないのだが、言われてしまったら、仕方ない

「ではカイトさん、食事が終わったら、現場を見に行きましょう」

「わかりました。でも子供達の話を先に聞かなくていいんですか?」

「食べたばかりの子供に、あの状況を、思い出せる訳にはいきませんからね」

「確かに、そうですね。では僕も食べ終えたら、一緒に行きましょう」

本当なら、食事後、すぐにでも聞くつもりだったが、もし思い出して、吐かれたら汚いし非常に不愉快なので、その代わりに死体の状態が悪くなる前に、調査することにした

|私《わたくし》が住んでる場所も、よく雪が降るが、ここら一帯は特に雪が降ってることが多いようで、昨日来た時もかなり降っていた。外に出ると来た時より雪が降ってる

特に会話することなく、すぐに現場に向かった

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「コムジョンさん、死体の状態ってどんな感じですか?」

外で待っているように、と伝えた案内人ことカイトが話しかけてきた

「雪が降って寒いおかげか死体の状態は、そこまで悪くなっていませんね」

「そうですか。うっ……なら僕はもう少し遠くから、見守ってますね…うっぷ」

それを聞き、見ても大丈夫だろうと少しだけ家の中を覗きに来た、カイトは死体を見た途端、少し吐きそうになっているが、そんなことは知らない。無視だ

死体の数は男11体、女1体の計12体だ。状況は全員、刃物で殺害されている

ほとんどは首の動脈を、少ない者は1回、多い者でも5回程、切られて死亡しているが、二体だけ、滅多刺しにされてる死体がある

片方は無精髭を生やした屈強そうな男で、もう片方は派手な化粧やネイルをしている女だ。2人とも左手の薬指に指輪をしている

この2人が、ここに住んでいた夫婦だろう

この2人を、メインに調べるとして、先に他の死体も調べることにした

他の死体は全員、似たような服装をしている。服装の感じからこいつらは、盗賊か山賊なのだろう

細身の男から戦闘には自信があるはずであろう程の筋肉を持つ男と、簡単には殺されそうにない者までここで殺されている

犯人は、かなり手馴れの人間だったのだろうか

他にわかることがないかと死体に触れてみたが、似たような服装だが1人だけ他の者とは違う部分があった

それは、この者だけやけに宝石や金で出来たアクセサリーをしていた

こいつがこの者達のリーダーだったのか?

近くの盗賊か山賊なら、村も襲われる危険もあるだろうから、カイトがその者達のことを、知ってるかもしれない

なので、滅多刺しされてる死体の体部分にそこら辺にあった布を掛け、カイトに見えないようにしてから、カイトを呼ぶことにした

「カイトさん、少し確認して欲しいことがありますので、ちょっと来て頂けませんか」

「えっ!?で、でも死体が…」

「大丈夫です。損傷が酷い死体は顔以外、見えないようにしてますので」

「…なら、行きます。ですけど刺されたり、切られた箇所とか見るのは無理ですからね」

「わかってますよ。見て頂きたいのは、殺された人間の顔です。この者達を知ってるのか、わかれば捜査が進みます」

「なるほど。それなら任せてください」

カイトは死体を見てくれと、言われてからすぐに、真っ青な顔していたが、滅多刺しにされてる死体と、他の死体の外傷部分を見る必要はないと、知った後はまだブルーな顔だが、死体の顔を見てくれるようだ

「まず、この2人からなのですが」

滅多刺しされていた2人の死体を指差した

「この2人ですか。この2人はここに住んでいた夫婦ですよ」

やはり、ここに住んでいた夫婦だったか。なら滅多刺しされた理由は、この夫婦に相当な恨みがある人間ってことになるな

「次に、この男なんですが…」

宝石等を身につけていた、リーダーらしき男を、指差した

「!?何故こいつらが、ここで…」

「知っているんですか?」

「知ってるも何も、この男は…この男達はここら辺で有名な山賊達です」

「やはり山賊でしたか。ってなると、この宝石等を身に付けている男が」

「はい。こいつがここら一帯の山賊達を纏め上げてるリーダーですね…」

山賊とは思っていたが、予想以上に大物だったらしい

そんな奴が、何故ここで殺されている

山賊達と夫婦になにか関係はあるのかすらわからない

この夫婦は山賊達に襲われただけで今回の件について全く関係ないと思ったが、それだとなんで山賊達も死んでいることが引っかかる

「僕達が思ってるよりも、今回の殺人事件解決するには時間がかかりそうですね…」

「そうですね。予想外なのが山賊達も死んでるってことです」

「カイトさんから、わかる情報ってありますか?犯人の手掛かりになればいいのですが」

「えっと…この夫婦になるのですが、この夫婦再婚だったんです」

「再婚ですか。じゃあ今の奥さんか旦那さんがどんな人か知ってますか?」

「女の方はここから少し遠い所の出身らしいことと、男の方の連れ子だったのがあの双子ですね」

「そうですか。再婚前のことはわかりますか?」

「再婚前は、育児を男1人で頑張ってました」

「なので、村の人間達が金を貸した理由は、その姿を見てたので信頼していたんですよ」

「でも、この女と結婚してから、色々変わってしまったみたいで…」

「なるほど。この男が再婚するまでどのぐらい期間がありましたか?」

ここはなんとなく、知っておかないといけないと勘が働いた

「そうですね…確か2年から2年半ぐらいですね」

「2年半…なら子供達は愛されて育てられた記憶がほとんどない可能性がありますね」

「そうですね…ってなんでそうなるんですか!?子供達は犯人に愛されてなかったとしても、親を殺されているのですから、この件に関しては無関係でしょう!!」

「あぁ…そう言いたかったわけではありません。ただ親から愛されてたって記憶がないまま、この劣悪な環境で暮らしてたんだなって思いまして…」

|私《わたくし》も親に愛されて暮らした記憶は薄いが、ここまで酷くなかった。この感情は同情的なものなんでしょうか

でもカイトのあの反応は、少し気になる。何故いきなり声を荒げてまで、無関係だと言ってきたのだろう

「それでは、また別の質問をさせて下さい。この女はどのような人間でしたか?」

「…この女は本当に金遣いが荒く、人を騙してまで金を集め、金と宝石に執着してたような人です。なんで、あの優しかった父親だった人がこの女のせいで、あんな男になったのか未だに、わかりません」

女の方はかなりの性悪だったらしい

心優しかった男性を、そこまで堕落させる程の人間だったのかは、死んでしまった後はわからないがこの女は色々と問題がありそうだ

「この女についてわかることは、ありますか?」

「この女についてですか…私が知ってる限り1番やばい話は、山賊達とやり取りしていたことです」

山賊達とやり取りをしていた?ならこの家に山賊達が来てもおかしくない状況ではあったのか

なら何故、両者共々殺されることになったのか、よりわからなくなってきた

話すことは、とりあえずこれぐらいで、死体をもっと確認してみよう

「カイトさん、死体をもっと詳しく確認しますので、外で出ていて下さい」

「は、はい!!僕が遠くに行ったのを確認して見て下さいね」

「わかってますよ。ここで吐かれたら困りますので」

「では、お先に失礼します」

カイトが離れたのを確認すると、損傷が激しい死体から布を取り、傷口を確認した。傷口の深さを知りたいために、細い金属製の棒状の物を、傷口にこれ以上深くならないように、慎重に挿しこんだ。何本か使って確認したが、どの傷口も大人が刺した時の深さよりもかなり浅く、力がない者かそれか子供が刺したような深さだった

首の動脈を切られた死体も確認したが多くて5回切られてる死体については1箇所、2箇所傷口がかなり浅く、止めを刺すために何回か切られたことがわかった

最初は手馴れの犯人だと思ったが、死体を確認してわかった

この事件の犯人は、これがほぼ初めての殺人でかなり非力な人間の犯行だ

事件現場を隅々確認したが、ひとつ気になった物があった

血で固まってるが切られた髪の毛が落ちている。長さはかなりある

これは持って帰って元々は何色か確認する必要があるので、一部だけ布に包んで持ち帰ることにした

カイトを寒い中ずっと待たせるわけにはいかないのでとりあえずこの髪の持ち主を確認する為に部屋に帰ろう

「あっ、コムジョンさんもういいんですか?」

扉を開いたら近くに、カイトが居た。流石に日が昇ってるとはいえ、雪は降っているので、少しでも雪を避けるために扉前に居たんだろう

「はい。気になる物がありましたので、とりあえずそれを部屋で確認する為に、帰るところです」

「そうなんですね。僕は被害者の情報など、村長に伝えてきます。おひとりで帰れますか?」

「大丈夫です。道ならもう覚えてますので」

「ならよかった。それではまた後で」

|私《わたくし》はカイトと別れて、泊まっている家まで戻ってきた

先程、回収した髪の毛を丁寧に血を洗い落とし、何色か確認した

「この色は…」

髪色は|私《わたくし》を見て怯えていた方の子供と同じだった

あの子供達は無関係だと思いたいがそうではなさそうだ

カイトが声を荒らげてまで子供達は無関係だと主張してきたことと関係があるのだろうか

「あの子供達と話し合わなきゃ駄目か…」

あの場所で全て見ていたであろうから、本当のことを言ってくれたらいいが、そう簡単には言ってくれないだろうなと考えつつ、村長の家に向かった

「村長さん、またお邪魔します。もう子供達に話聞いても大丈夫だろうと思って来ました」

「おう、そうか。子供達なら寝室にいる」

「わかりました。ひとつお願いなのですが、よろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「子供達と|私《わたくし》だけ…いえカイトを含めた4人だけで話したいのですが、|私《わたくし》の部屋に集めることは可能でしょうか?」

「それなら、別に構わんがどうしてだ?」

「あの家で起こったことについて知ってる3人だけで、話したいだけです。深い意味はありません」

|私《わたくし》が今考えてることが事実なのであれば、その事実を知ってる人間だけで話した方がいい。口実を合わせるにも楽ですし

村長は、子供達を寝室からこちらに連れて来てくれた

「このお兄さんが、お前達に話があるそうだ。悪い人じゃないから安心しろ」

子供達はお互いの服を掴むようにして、抱きしめ合ってる

青髪の方は、朝と同じく|私《わたくし》を睨んでおり、赤髪の方はこちらの顔を見るが目線が合った瞬間すぐ目を逸らし、体を震わせる程怯えている

「お、お兄さん…誰」

青髪の方が話しかけてきた

「|私《わたくし》はコムジョンと申します。貴方達に話があって来ました」

目線を子供達に、特に青髪の方に合わせながら、自己紹介をした

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小説や漫画もどき用のプロットに使ってる