夜半過ぎに訪れた星の民は、穂邑の熾した火を頼りに井戸の中の星をすくい取り、瓶の中に収めていった。
にわかに騒がしくなったのにつられて、ヨルは寝台の中で目覚めた。さきほど食べたシチューと、穂邑のくれた薬のおかげで、幾分人心地を取り戻していた。まだふらつく身体を起こすと寝台を出て床に脚を下ろし、窓際まで歩いていった。
外には砂よけのマントに身を包んだ幾人もの人々が、大小の荷物を抱えて行き交っていた。瓶が布にくるまれ、運ばれていった。布越しに淡い光を放つ瓶の中身は、おそらく深月の話していた井戸に降る星を集めたものなのだろう。
深月が星の民らしき人たちと話し込んでいるのが見えた。風はやんでいたが、部屋の中では何を話しているのかまでは聞こえなかった。
ヨルが身動ぎもせずに外を見ていると、重い扉が開く音がして、やがて穂邑が入ってきた。
「もう身体は大丈夫なのか」
「ああ。すこし外が、気になって」
「起こしてしまったのなら、すまなかった」
「穂邑は篝火の見張りをしていたんだろ。もう良いの」
穂邑は頷くと、ヨルの肩を大きな手のひらで抱いた。
「身体が冷える。薬を持ってきたから、飲むといい」
ヨルは穂邑の手のひらに軽く寄りかかると、促されて寝台に戻った。
「もうだいぶ良いよ……その薬って、あの人達が持ってきたもの?」
「そうだ。彼らと我々は、小さな取引をしている」
「井戸に降る星と交換しているんでしょう」
「……深月が話していたか」
「うん」
寝台に腰を落ち着けたのを見計らって、穂邑が薬を差し出した。鉄の色をした丸薬は、光に反射させると不思議と鈍く輝いていた。
水差しの水で薬を飲み込むヨルを、穂邑はじっと見ていた。
「この薬って、見た目は苦そうなのに、飲むと甘いんだ」
「甘く感じるのなら、まだ身体が本調子ではないんだろう」
「そういうもの?」
「ああ。そういうものだ」
ヨルの身体に布団をかけてやると、穂邑はヨルの頬を撫でた。ヨルは心地よさそうに目を閉じて、息を吐いた。
「お前は、自分がどのような目の色かも知らないのか」
「なんだよ、突然」
「深月が話していた。お前の目の色は、闇に輝くと」
「長く工場にいたから、その名残じゃないのかな」
体内に残された放射性の物質が、瞳孔を通して漏れているのかもしれなかった。もっともヨルにとっては、そんなことは瑣末事で、目の色などどうでもよかった。
「お前の目の色は……翡翠(jade)だ。緑の美しい目をしている」
「それって気味が悪いんじゃないの?」
挑発するように尋ねたヨルの瞳は潤んで、熱を帯びていた。穂邑は首を振ると、気遣わしげに眉を寄せた。
「少し顔色が悪いな。熱が引いていないのかもしれない」
「……ホムラがおかしなことを言うからだよ」
ヨルは目を細めると、頬に当てられた穂邑の手を包んで、軽く睨んだ。
「夜になるとずっと前から、こうなんだ。でも夜は寂しいものだろ?」
穂邑は椅子から腰を浮かしかけて、ヨルの頬に触れたままかがみ込んだ。唇同士が軽く触れて、それから引き寄せられるように重なった。
「温めてよ、ホムラ」
「ヨル……いや、何も言うな」
「ミツキに知られたくない?」
穂邑の顔が寂しげに歪んだ。
「オレはずっと一人でいたから、ホムラとミツキが羨ましいな」