ブルースとクラークのとある朝のおはなし
テキスト版は画像の後にあります🙋♀️



以下、画像と同様の全文
まだ少しだけ眠っていたいような心地の中、気だるさを纏った体で腕を伸ばすと「んんーっ」と気の抜けた声が口から自然と漏れた。もぞもぞと上半身を起こし、重たい瞼を擦りながら窓の外に目をやる。
日光を浴びるにはもってこいの大きなガラス張りの窓辺からは緩やかな陽の光が差し込んでいる。クラークはその様子を寝ぼけ眼でぼーっと眺めた。すっきり目が覚めていくというより、眩しいなと感じてしまうのは、まだ少し眠っていたい気持ちが強いからだろう。
「ようやくお目覚めかな、ねぼすけさん?」
なにやら悪戯っぽい声の調子に振り向けば、身支度をすっかり済ませてしまった様子のブルースが、いつもの仕返しと言わんばかりに得意げな顔をして部屋に入ってきた。
「おはよう、ブルース」
「おはよう。よく寝ていたようで」
「誰かさんのおかげで いつも よりぐっすりさせてもらったよ」
「ははっ、それはそれは大変失礼しました」
「少しは手加減していただきたいものだね」
「次からは できるだけ 気をつけよう」
「ふふ。次からねぇ。これは、期待できないなぁ」
全く反省の色を見せないブルースの言い草にクラークも思わず笑ってしまう。くすくすと肩を揺らしているとベッドに腰をかけたブルースからクラークの額に口づけがひとつ降ってきた。
「今日お仕事の日だったの?」
「いや、ちょっと顔を出してくるだけだ」
「そっか。もしかして、もう出る時間?」
「あぁ、行ってくる」
「エントランスまでお見送りするよ」
「いや、ここで大丈夫だ。ゆっくりしておいてくれ」
「そう?じゃあ、お言葉に甘えて。気を付けてね」
なんだかんだ言いつつも、身体のことを気にかけてくれる優しさに思わず笑みが零れてしまう。クラークはブルースの肩に手を添えて、頬に口を寄せると「ちゅっ」と小さな音を鳴らし、そのままの勢いでブルースの頬にクラークは鼻筋をすり寄せる。
昨夜、クラークの肌をくすぐらせたブルースの髭は、すっかり刃を当てられていて滑らかな肌触りだけが鼻先に伝わる。その感覚がなんとなくつまらないような、寂しいような。そんな気持ちでブルースが愛用するシェービングクリームの残り香をすんと鼻に感じていると、クラークの視界は急にふわりと反転し、お返しと言わんばかりに深い口づけが唇に落とされた。
「むぅ。ぼく、まだ歯磨きしてないよ」
「それくらい、別に気にしない」
「僕はちょっと、気になる」
「そんなに気にすることでもないだろう?昨日の、」
「ほ ほらっ、早くしないと遅刻するよっ」
ブルースに二の句を継がせないよう、とっさに言葉を遮り出発を促してしまったのは、思わず昨夜のあれこれを思い出してしまったからで、クラークはこの話題から早く離れようとブルースの両肩をぐいぐいと押し返した。しかし、ブルースが耳の先を朱で染め慌てふためくクラークを見逃すはずがない。ブルースは頭をぽんぽんとなだめるように撫でたかと思うと、流れるような手つきでクラークの顎に手を添え親指で唇をなぞりだした。
「遅刻か。それも悪くないな」
「悪くないって、なに言ってっ」
ブルースは最後の言葉も紡がせないうちにクラークの唇を塞ぎ、その勢いのままベッドに押し倒す。先ほどクラークに言った「気にしない」の一言を体現するかの如く、噛みつくような口づけをすると、それだけではあきたらず舌まで侵入させてきた。
「―んっ・・・」
クラークはなんとか一呼吸を入れて、鼻で息を呼吸をする。ブルースに侵入を許した口内にはシトラスとミントのフレーバーが広がる。
「し、仕事は行かなくていいの?」
「別に構わない、それより大事な予定ができた」
「怒られても知らないよ」
「ブルース・ウェインに怒れるのは君くらいしかいない」
「なんて不真面目なCEOなんだ」
クラークの非難もなんのその、ブルースはジャケットを脱ぎ捨てネクタイを緩め始める。そんなブルースの様子を盗み見するクラークの先ほどまであった眠気は、とっくの昔に吹っ飛んでしまっていたのだった。
おわり