ふらっと思い出したときに訪れる文具屋がある。駅の裏側、商店街というには小さいけれど昔ながらの個人店が並ぶ一角にそのお店はある。文具屋の店舗自体は二階にあって、一階は本と雑貨と駄菓子なんかがごちゃっと並ぶ、地方の田舎にありそうななんでも屋で、その脇の階段を上った先に一階の店舗よりも広々とした文具屋がある。
日常で使う様々な文具から、お子さんが学校で使う文具、画材。高級文具に学校では使わないだろう本格的な画材など。好きな人にはたまらないラインナップが並んでいる。
本当にふらっと思い出したときにしか行けないお店ではあるけれど、一度足を踏み入れると時間が溶ける。見てるだけでも楽しいし、店員さんも忙しくなければ話し相手になってくれる。どういう繋がりがあるのか知らないけれど、ペンクリニックまで開催するぼくにとって最高のお店だ。
昨日も突然思い出して訪れたのだが、一階のなんでも屋は店仕舞い、閉店していて驚きを隠せないまま、文具屋へ続く階段を上がるといつもの文具屋も片づけをしていた。
ちょっと来ないうちに何故?
唖然と立ち止まっていると、あらと馴染みの店員さんに声を掛けられた。
「おみせ、しまる?」
片言で出てしまった言葉に店員さんは寂しげに笑って「このご時世だからねぇ」と答えてくれた。
「建物の老朽化もあるし、この辺の再開発もあるから、一概にご時世と括るのもヘンかもしれないけれど、決め手はね」
確かにここの反対側、駅の方は綺麗なお店が増えてきた。駅ビルの中にオシャレな雑貨やインクやガラスペンを置くお店もある。でもここはマニアックな人たちが満足する謎空間なのだ。こんな近所でペンクリしてくれるお店ないし、ぼくと楽しく万年筆の話してくれたあの人は?
「もどります?」
「どうだろうねぇ」
さっきの同じように店員さんは笑って、ぼくは目が覚めた。
そう、このよく行くお店、実はぼくの夢の中の出来事なのだ。夢で何度も見るぼくの考えた最高の文具店なのだ。オーナーはぼくじゃない。ぼくなら閉店は望まない。足繫く通えたお店でもない。本当に、本当に思い出したときにふらっと立ち寄って、満足するまでお店を眺めて、話をして帰るそんなお店だった。買い物したことあるのかな? ペンクリ行った記憶(夢)はあるんだけどなぁ。
このお店ではないけれど、現実で少しずつ身近なお店が閉店している。お店に貢献できることは買い物することだけれど、必ずそこで買い物出来る訳じゃないし、申し訳無いけれどぼくもそこまで裕福じゃない。世知辛いなぁ。
夢の文具屋さん、また戻ってきてね。待ってます。また戻ってきて欲しいから記録に残すことにしました。