今すぐではないかもしれないし意外とすぐかもしれない、けれども触れる機会がそれほどなかった「死」についてを丁寧に描いた映画
身内の死やペットの死は経験してきたけれども本当の今際の際に立ち会ったことがなくて、未知への興味と恐怖が半々くらいあるって感情を持ったまま映画を観に行った
↓ここからはネタバレだよ↓
開幕エンドロールでちょっと動揺した
エンドロール観る観ない論争を初手で封じてきた
「フランス語で……よく分からないけど……これエンドロールじゃね……?」と思っていたらエンドロールだった
エンドロール中に観終わった映画のことをあれこれ考えるのが好きなんだけど、これはこれで最後の画が頭に残ってこの映画に関してはとても良かったと感じた
どこにでも居そうな老夫婦の日常が画面分割されて、そこからはもう二人の人間の死をひたすら辿っていくことに
夫婦なので時に絡み合いはしつつも、大体絡む時には家族の問題(主に認知症の母)がヒートアップしている時で初めの日常は戻ってこないんだなぁと何度もまざまざとぶつけられた心地
父は心臓病だけなのかな……ただ頑固だっただけなのかな、何度も電話を掛けたりリストは作ったと言い張るシーンとかが気になったけどどうなのだろう
自分の事を他人だと思い怯えたり徘徊したり、そんな母から目を背けたい心とそんな母でも愛し続けている心が混在している父よ……
息子のステファンも似たような距離感なんだよね
少し不安定だけどどこにでもある家庭で、ちょっとヤクに手を出し続けていて自分の生活が安定しない息子と妻を愛しつつも浮気相手も愛している夫がいるだけなのよ
認知症に向き合いたくないけど完全に見捨てたい訳ではない、そんな気持ちが端々に溢れていて絶妙にもどかしさと共感を煽られる
家族で今後について話し合っている時の雨の音?がしっかりと響いてくるところが「リアル」だなぁと感じた、なんかああいう真面目な話してる時って環境音が際立って聞こえない?
冒頭のラジオで流れている「死を受け入れる過程の話」や父が書いている「夢と死についての本」、当たり前のようにそばにあり考える事も多い「死」はいざ訪れる時は案外あっさりと訪れるものだなぁと思った
父が息を引き取った時はまだ母がいたから、ステファンが死を受け入れ飲み込んでいくところまで至らなかった?
随所随所で認知症の母が元の母らしく戻ったようになるところがそれこそ人生の岐路になるところばかりでおおん……となった
母の最期は正気だった説を推したい
個人的にはそんな事はなく、認知症でガス漏れをやらかした時と同じ事をしてしまっただけ説かと思ったんだけど振り返ってみるとそうではない方を推したいと思った
いよいよ家から離れてホームに行く事になる、思い出の詰まった家から離れたくない母が自ら人生を終わらせた……って綺麗すぎる気はするけど多分そうなんだろうな
気持ちが落ち着いていた時の母はホームに入る案に賛成の態度は一応示していなかったのと、ベッドに潜り込んで神に祈りを捧げたところでああ……ああ……これは自ら選んだ終わりか………となった
シーツを被せられた父と対面するところとシーツを被って人生を終える母がふんわり被っていてあああ…………
「人生は夢の中の夢」も好きな言葉だったけど、キキ(ステファンの息子)が納骨の時に「ここが二人の新しい家?」って尋ねてステファンが「家ではないよ、家は生きている人間が住むところだから」と答えたのがステファンが死を受け入れられたところなのかな……と感じた
父の葬儀のシーンがなかったから余計に、母の葬儀の準備を色々していく中で死を受け入れていけたように見えた
父の葬儀も何やかんややっているだろうけど(母が認知症だから)喪主はきっと母だったのだろうし、父が死んだ時に子供返りしていたもんなぁ
骨壷真っ赤だったけど、母の好きな色なのかな
初めの徘徊時の母の服装がとびきりおしゃれで真っ赤だったから……
最後の二人の思い出が詰まった住処がじわじわと片付けられていくコマ送りのシーンも人生が終わって「物」や「場所」が消えていく寂寥感をじんわりと感じられた
からのFinでこう……ね……程良いぽっかり感よ
綺麗すぎずかと言って悲壮すぎず、だからと言って淡々と事実のみを見せる訳でもなく絶妙なバランスである老夫婦の最期の日々を描いた映画だった
二画面の見せ方、環境音、照明の仄暗さ、映画好きな父が部屋中に貼っているポスター、細やかに心を揺さぶる「見え」が良い
「薬」と「クスリ」の二画面とか、どちらの画面も追いたいような出来事が起きている時の視線の移動が若干忙しなかったけど
一人になってしまっても全画面にならずに分割された片方の画面だけの演出がまた「死」を忘れさせない演出だった
父が観ていた棺桶の人視点の映画の風景と母が火葬場に運ばれるシーンがちょっとリンクしていた?あの見せ方も好き
個人的にはとても良質で丁寧な映画で結構好きでした