どこからどこまでフィクション? -「ある閉ざされた雪の山荘で」感想メモ

ツナ
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tohoシネマズ日比谷にて閉ざ雪(舞台挨拶中継つきの回)を観たので感想メモ。Twitterは絶賛コメントばかり流れてくるので正直な思いを静かに書き留めておく。なお原作は未読(数十年前に読了済みだけど記憶無し)で、番宣のみチラッと見た程度の事前情報。

全体

  • うーん、正直イマイチだったなあ。いろいろと不整合が起きていたけど、多分脚本が一番良くなかったようにおもうよ... 監督と脚本家を聞いたときに感じた不安が的中してしまった

  • ミステリじゃないじゃん?とおもったらちゃんとポスターにサスペンスエンターテイメントと書いてあった。でも結局これって青春群像劇だよね。宣伝の仕方を工夫しないと観客の期待値と合わないとおもう

  • 音楽が結構良かった、弦楽器の使い方が印象的。FICTIONは最高

  • 重岡くんは良かったし、他の役者も全員良い。でも演出と脚本の影響で、華やかな役者たちに釣り合うキャラクターになっていないように感じてしまった。青春群像劇だったなら新人を集めて作った方がリアルな迫力が生まれた気がするし。結局何がやりたかったんだろう?

脚本

  • ミステリの頭で行ったら、ひたすら画角と音楽で不安を煽るシーンだけが続くし、誰も証拠を探したりアリバイを聞いて回る「推理」をしないし、かと思えばコメディ要素が入ってくるので中弛みが激しくて、一体何を書きたいのかしら?と思っていたらいきなり青春群像劇!大団円!で終わってびっくりした。ポスターを見ればサスペンスエンターテイメントと謳っていて、あー たしかにミステリ(謎解き作品)じゃなくサスペンス(心理的恐怖を煽る作品)の位置づけだったなら納得かもとはおもった。けど、やっぱり大衆は東野圭吾=ミステリを期待して行くんじゃないかな... ミステリ仕立てにするか、宣伝を工夫するべきだったのでは

  • ラストの舞台ポスターの1カットで今まで観たすべてを「劇」に変える仕掛けはすっごく面白かったし、それを踏まえて「どこからどこまでフィクション?」を観賞後に誰かとあーだこーだ話すのは楽しいけれど、すべて劇だったという設定を隠れ蓑に脚本の穴を誤魔化されてる気がするし、複雑化したせいで観客が理解しようと考察を重ねるのを逆手にとって、本来制作側がしておくべき辻褄合わせの大部分を観客に委ねているように感じられたのが残念だったなとおもう(冒頭の目隠しバスのシーン、ラストの「ゆっくりでいいんだよね」のセリフなど、腹落ちしないシーンが残る)

  • 一番最悪だったのは、「どこからどこまでFICTION?」と余韻を持たせて終わったのに、パンフにあれは全部劇だという制作側(P)の「正解」が書いてあったこと。さすがにこれはナンセンスすぎるよ!映画のターゲット層って20代後半UPとかだとおもってたけど、ここまで喋られるとバカにされてるように感じられて辛い。本編が提示するものと、本編以外から提示されるものが噛み合ってないから何がしたいのかわからん

  • トリックが多重構造になってるのと同じように、俳優陣の中に重岡くんというアイドルが入っている構造や、役者の中に脚本家が混ざっている構造など、トリック以外の部分も二重三重になっていてそこは結構おもしろいなとおもった。トリック自体はヒントが明確なので驚きはないけれど

  • 東郷先生クズすぎて、そんな劇団でよく続けようとおもうな?森川葵ちゃんの恨みの矛先は東郷であるべきじゃない?と思ったけど、クズなことを認識しながらも脚本を見てもらったりオーディションを絶対に去ろうとしない天音くんがいたので、辛うじて東郷のカリスマ性が成り立ってたなとおもった

演出

  • やりたいことはわかるけど、伝わってないことが多くて、結果として独りよがりな演出に感じる

  • 登場人物が8人いて全員がキーパーソンなのに、姓で呼ぶ人と名前で呼ぶ人がいるからフルネームが全然!頭に入らないのがとにかく良くない!観賞直後でもわたしは俳優の名前でしか感想話せなかった。没入感が削がれるので本当に致命的だとおもう。必要なのは物語が進行する中で名前を刷り込ませる工夫であって、仰々しく劇団パンフを掲げるシーンじゃないんだよお!

  • 間取り図のカットの多用もミステリ... じゃなくてサスペンスの一助になってる... のか?可愛らしいけど、正直必要性がよくわからない... しかもどれが誰だか全然わからないという。せめてあのカットでうまいこと顔と名前を刷り込ませる工夫をすれば良かったのにね

  • やけにみんな喋りがゆっくりだなあとおもってずっと違和感があったけど、全部劇でしたー!ならまあ納得できるしそう考えた方がいいんだろうな?

  • 目隠しバスについては、他のアイデアもあったがムードを出したくてこれにしたってパンフでPが言ってたけど、別案が何か知らないけど、じゃあ別案のが良かったんじゃない...?としか。とにかくパンフは喋りすぎ

演者

  • 演者はみんな良い。間宮くんと森川葵ちゃんが印象的だったかな

  • 重岡くんは相変わらず周りから浮いてる設定の「異物」を演じるのがうまい。アイドルという職業でいながら普通であることを大切にしている重岡くんの生き方ってこういう風に演技にも反映されるんだなとおもった。天音くんにタメ口きくくだりとかから垣間見える、劇団員なら誰もが抱えてそうなプライドみたいなものの解像度が高くてびっくりした。重岡くんとはあまりに乖離してるし、自分の中に無い価値観をもった人物を演じるのはさぞ大変な作業だっただろう

  • 間宮くんは作品への馴染み方が頭ひとつ抜けていた。とにかく何をやらせても自然。森川葵ちゃんのオーディションの演技も説得力があって良かった

また追記するかも。整理すればするほど残念な気持ちが大きくなっていって悲しい。あと公開2日目で配布特典終了とグッズのブックカバー売り切れはいただけなさすぎた。でも映画館の音響で聞くFICTIONがたまらなく良くて、正直それだけで行った価値があったと思ったよ