私は以前、北海道に住んでいた。前職の転勤で北海道へ異動し、札幌に拠点を構えながら、週の半分以上を、出張しながら転々と回っていた。最初は胆振地方。そこからニセコや倶知安が追加され、札幌市内、小樽と伸びたのが北海道にいた頃の半分。中堅扱いになった当時25歳の私は、そのエリアを後任に引き継ぎ、道東と知床付近を受け持った。この頃に結婚したのだが、火曜日から金曜日まで出張である。当時からよく妻を泣かせた。結婚したことをお互いに後悔した最初の出来事だったと思う。

本の表紙を見た時、ここが野付半島か風蓮湖だと思った。だから20代のそんな思い出が蘇った。
岸辺の旅は、生と死の境界が曖昧になり、生と死が互いに惹かれ合いながら旅を進める。残された者の心の整理の旅でもある。映画化もされ、知ってる人も多いのではないだろうか。
野付半島へ行ったことがある。私一人の旅だったが、今でもあの想いは忘れられない。世界の最果てと言えるほどの光景。なぜか、自分の死生観を問われる気がした。死ぬことを恐れた若造(私)が、死を持って人生が完成することを悟る。死は恐れることでもないし、生は楽しいことばかりではない。生き物は、それでも生きていく力強さを秘めている。
風と波で作られた地形。原生林に海水が浸水する。原生林はどんどん枯れていった。滅びゆく様を眺めていると、上に書いたようなことを考えずにはいられなくなる。本当に不思議な場所だ。死ぬまでに、もう一度行きたい。息子にあの光景を見せてやりたいと思う。
現代の小説というだけあって、読みやすかった。すらすら読めたし、一見難解なことが書いてあるものの、少し考えを巡らせればその文章は頭の中で映像化される。難しく考えずに読み進めることができてよかった。
愛の形、死生観、それでも食べずにはいられないこと、悲しさと切なさと美しさ。それらを紐解き、考えさせられるショートトリップを与えてくれる一冊であった。