村上春樹は初めて読む。多分この本は、彼の著書の中でも軽い分類になるのだろう。だから私でも苦労なく読み進めることができたし、楽しい読書体験となった。

この小説には「死」と「エロ」が交互に漂う。どちらも直接的な描写で分かりやすい。ストーリーもわかりやすいものだ。だからすらすら読めたのだろう。生と死、エロ。この2つのテーマは私が好むものだ。生も死もエロも、相互に複雑に絡まっているのがこの世の本質なのである。人は生まれると、望むと望まざると、死を迎える。この二つは全ての生き物に平等に与えられる。エロスは生きる衝動であろうか。破滅への階段であろうか。ただの欲求欲望?衝動?これらに理性は介在するのだろうか。入り込む余地があるのだろうか。
時に哲学者の中には、エロを、すなわち煩悩を追い出して生と死の関係性を追求する。しかし性衝動は生き物ほぼ全てに与えられた。これから目を背けるなんて。エロもまた、生と死に関わっているのだから。
人間は、望むとも望まなくとも生まれてくる。その時与えられた体と性別は、また望んで得られるものではない。親が金持ちかどうかも、選べない。親が子を愛する家庭か?虐待を主として家を維持する家庭か?親は長生きか短命か?そんなことは、望むことすらできない。もし、強い性欲が与えられたなら、それに抗うも良いし従うのも良い。今に集中するか将来を設計して行動するか。
この小説は、そうした二面性を常に訴えてくる。生と死。性欲の有無。男と女。日本と外国。白と黒。持つ者と持たざる者。少年と老年。一途と浮気。それらの対比が、人生を彩ることを知らせてくれる。色彩豊かな人生を。どちらかに傾いてはいけない。かといって、真ん中に固着してもいけない。右も左も真ん中も。それぞれへの理解が人生を彩る。人生とは、そういったことを知るための長い巡礼の旅なのだ。