インターンという名のvibe coding

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公開:2025/6/6

これは、N回目のインターンへの総括である。

かつて、自分が少しだけ出資して作った会社の取締役CTOであったとき、インターンをした。理由は、お金を節約するためである。インターン生の成長とかではなくて、相対的に安価に、最低限の開発を実現したかった。

結果として、それはワークして、まあハリボテに近い状態ではあったが、一応は動作するようなWebアプリを3つほど作り、実際に売上が立った。うち一つのサービスのコードは8年後の今も現役であり、未だに当時のインターン生が書いたコードが稼働している。多くはリファクタリングを経て置き換えられたが、少なくとも1つははっきりと重要機能を支えるコードになっているし、その他いくつかもちゃんとワークする基盤を提供している。

2017〜2018年の当時で、2500円の時給を出して募集した。当時の日本国内のPythonのWebアプリ開発インターンとしては、ほぼ最高に近い水準だったと思う。インターン募集媒体の人には「1ヶ月で1人集まれば十分」ぐらいのことを言われたと記憶しているが、蓋を開けてみれば1週間で10応募はあった。結果的に、相当優秀な学生が集まり、その後彼らは、起業して相当額の資金を集めていたり、話題性のある会社の取締役になったり、世界的なミュージシャンになったりした。

当時、明らかにすごい才能が集まったとは思った。大学院の時代に周囲にいた人々に近いような水準、あるいは上回るような水準かなということをなんとなく感じていて、それは実際にそうだった。

ただ、そのような才能に対して、まあそれなりの時給は出したにしても、彼らの中に何も残すことができなかった。いや、正確には全く何も残せていないということはないと思っていて、いくつかの良いこともあるにはあっただろうが(単純に起業仲間を巡り合わせたとか)、ただ、まあ、この経験が人生を変えたとか、それまで根本的に出会えなかったものに出会えた、みたいなレベルの経験はほとんど提供できなかったと思う。

一切学歴でフィルタリング・選考をしていないという前提において、約半分が東大生、約半分が海外大学生、客観的な属性だけを見ても日本を背負って立つであろう才能、さらにその中でも面接で選りすぐった(東大生の通過率が50%ぐらいと記憶している)メンバーに対して、私は一時金の2500円/時しか提供できていない。これは私にとって本当に悲しいことだった。ただ、それによって、私は生き残ることができた。

では、生き残り以外で、彼らにとって何が必要だったのか。それは2024年〜2025年にかけてようやくわかって、「これを教えられればよかったのか」というリストはできた。これをインターンの期間でうまく教えられたのか、という課題はあるが。

そして今唐突に、このインターンが私にとって何だったのかがわかったのだ。vibe codingである。私はインターン生をAIとして使っていたのだ。つまり、ちょっと調べないとかけないが、相当高い確度で実現はできて、かつ実現できればそれなりに面白いようなことを雑な自然言語でインターン生に投げ、多少はアラがあるがAIと比較すればアラがないコードをサービスに取り込んでいたのだ。これはもう本当にそうで、インターン生の多くは国語能力が高かったので、今のAIにプロンプトで指示を出すのに近い感覚でワークした。2500円/時のインターン生でも、普通の開発会社に出す場合の1/2以下の費用感で開発はできたし、半分ぐらいの開発会社では実装できないであろう機能も実装できた。ただ、vibe codingなのでちゃんとしたレビューとか、彼らがどうあるべきかみたいなことはほとんどできていない。でも、素人からすれば十分にワークするような水準のコードは出力されていたのだ。

結局は最近言っている、「認知を合わせる」ということの延長ではあるのだが、学習をさせるためにはvibe coding(出力をそのまま受け取る、だめだった時に指示の仕方を変える)ではだめで、フィードバックをしないといけない。作業者に学習させないといけない。かつ、それが記号接地できるよう、ちゃんと作業者(学習者)本人にとって意味のある物事になっていないといけない。

ただ、昔は2500円/時ぐらいが敵だったのだが、今のAIはもっと安価である。きちんと育てるコストは地味に高い。これは本当に厳しい。教育の投資効果の評価がすごくシビアになってしまう。私はAIのおかげで作業指示道(≒vibe coding)を人間に適用するのをやめようと思ったのだが、同時にAIのおかげで営利活動に対する評価を一層シビアにせざるを得なくなってしまった。おそらく、ビジネスでも慈善活動的に教育をしないといけないだろう、という気持ちになってきている。今の時点で既になんとなく実感があったが、多分この動きはこれから加速するのだ。

国語力のないジュニアは、明らかに短期的にAIに勝てない。AI関連の研究者や認知関連の研究者が指摘しているように、国語算数の基礎的な学力が記号接地していないレベルの人は、もはやAIに太刀打ちができない。

うちの長女は、きちんと物事を考えるフォームはできているので、おそらくその水準で困ることはないだろう。演算や行為の意味を考えて、たとえば掛け算であれば足し算の繰り返しであるということを概念として理解したうえで適用するというメタ的な考え方のフォームはできている。次女はまだ1歳だが、いまコミュニケーションする限りでは、おそらく次女も問題はないだろう。しかし、接点がもっと浅い人を全員は救えない。

日本では働き方改革みたいな話もあったりして、そういった要素での難しさもあったのだが、いよいよそれ以上に、本当に教育が難しい時代に突入した、ということを考えていた。いや、AIによって教育自体は易しくなっているのだが、その費用対効果が難しくなったのだ。営利活動とは。何年で回収すればいいのか。育てる大企業と、優秀なメンバーで掠め取るスタートアップに分かれればいいのか。

まあ、何にしても、とりあえずインターンの総括はもう終わっていいだろう。vibe codingだったと気づいたことで、おそらく私はインターンの呪縛から解放された。これからの課題は山積みだけれど。

@339s
あるソフトウェアエンジニアの考え