ケーキをひとつ

3㎗
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公開:2024/6/8

ケーキを食べた。自分で買って、ひとりで食べた。

佐藤錦のショートケーキ

コージーコーナーは神。


何かあったわけでもないのに、ふとここからいなくなりたくなるときがある。

昔から自分で自分を認められなくて、小さな失敗や何年前ってくらい過去のことを持ち出しては、やっぱり自分はダメなんだと思ってしまう癖がある。自己否定癖とでもいうのかな。

母から言われてきた「あんたは不器用なんだから、人の二倍三倍努力してやっと普通の人間なんだからね」という言葉が、脳内にへばりついて離れない。

認められたくて、普通になりたくて、たくさん努力してきた。無事に優等生の良い子に育った(自分で言っちゃう)。それでもきっと私が認められるには、もっと遥か高くのハードルを飛び越えなければならなかった。(もしくは地球の裏側にある、まったく別の競技をやるべきだったのかもしれない。今更戻れないけど。)

永遠に高みを見続けるのは首が痛くなるし、現状維持でさえ大変なのに、私は無理をしてでも優等生でいるしか生きる方法を知らない。

優等生でないなら、ここにいる権利はない。と、勝手に感じて、勝手に苦しんでいる。


そんな私が、初めて自分のためだけにケーキを買った。

会社からの帰り道、いきなり「ケーキ買って帰ろ」と思いついた。コージーコーナーの前まで来ても、余計なことを考えずお店に入れたことに静かに驚いた。

普段なら贅沢をする前には悩みに悩むのに、思いのままに行動している自分はめずらしかった。

ショーケースの中からひときわ目を惹かれた佐藤錦のショートケーキを選んで、箱に詰めてもらう。久しぶりのこの時間にわくわくした。

食い意地を張ることも、家族がいるふりもせず、ケーキをひとつだけ買った。今の私にちょうど必要な分だけが欲しかった。

ケーキはすごく美味しかった。さくらんぼの風味がさわやかで、ぺろりと平らげてしまった。後で調べたら、ちょうど発売初日だったらしい。なんかちょっと嬉しい。

ほんの小さなことだけれど、心の声に素直に耳を傾けて行動できたことで、一枚だけ優等生の殻を破れたように感じた。

もがいて、模索して、色んな生き方を探してきた。それが実を結んで、ようやく少しずつ自分に「いいよ」が言えるようになってきたのかもしれない。


ケーキを食べた。自分で買って、ひとりで食べた。

自分をひとつ、許せた気がした。

🍒