虚無の帰宅

燦々沢♨
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「出身どこなの?」

心の内を探る決まり文句。

「田舎の方っすよ」

方言喋ってみてよ、っていう反吐が出るほどの雑なフリをなるべく回避するためにワンクッション挟むクセがついた。効果の程は分からない。

「……青森です、太平洋側の方なんですけど」

「へぇ、近いじゃん」

「ん?どういうことです??」

「あれ言ってなかったけ?……俺さ、出身青森なの」

「知りませんでした……そうだったんですか」

「まあねぇ、こういう話全然できてないもんね」

…………。

上司とのコミュニケーションは、ついぞ盛り上がることなく週末に突入してしまった。同じ青森県出身で、しかも同じバイク乗りときたもんだ。意気投合するにはこれ以上ないシチュエーションだと自分でも思う。

2024年、俺を取り巻く環境をガラッと変えるために新天地へ飛び込んだ。見たことない街並み、聞いたことない用語、新しい同僚、上司。まだ1週間を耐え抜いたばかりだが、飛び込んだ先を間違えたように感じる。

でもさっき、ノリと勢いで飛び込んだ職場近くの二郎系はとても美味しかった。

この新天地は店も多く、人通りも多いはずなのに、そういえば俺は外で笑顔を見ていない気がする。俺とは反対方向に進む人たちだから、恐らく家はここらへんなんだろうに……金曜日だよ?嫌なことでもあった?

今週はずっと、妙に日中寒かった。でも不思議なもんで、帰宅の途につく頃には寒さが和らいでいるように感じた。今日は特にそう。おかしいよね。太陽が出ている時間帯の方が暖かいはずなのに、バカのひとつ覚えみたいに燦々と顔を出し続けているはずなのに。

そういえば風も強かったように感じる。……いやこっちは気のせいかな、気のせいであってほしいな。

最寄り駅で電車を降りると肩の荷も同時に下りるような感覚に襲われる。これは最近始まったことなので、俺は明確に回数を覚えている。今日で4回目だ。ちなみに、今年に入って仕事以外で電車に乗った経験はまだ無い。

近所のコンビニが視界に入ると、大した移動距離じゃないのに心の中で「懐かしい」と呟いてしまった。毎日毎晩見てるでしょうに。

いや、正直なところ人間関係はどうでもいいんだ。端っからそこはあんまり期待はしていない。だってIT業界は、どんな業界にも負けないくらい人間同士の繋がりが薄いのだから。

問題なのはそこじゃない、そこじゃないんだよ。

変化を求めたはずなのに、業務内容に何の変化も見られないんだよ。1番変化してほしかった所がさ。

眠気に勝つにはどうすればいい?腰痛を悪化させるか?

PCの電源を入れ、とりあえずYoutubeを開く。缶チューハイを片手に「ハァ」と部屋でひとり溜め息をつく。……もっとニンニク増せばよかったかな。どうせ明日は人に会う予定無いし。

正月に青森さ帰省していた時、二戸まで車を走らせた。目的は『2door』という名の巌手屋の直営店舗。ここでしか買えない限定品があるらしい。友達へのお土産にうってつけじゃないか!

その日、店は定休日だった。「そうか、俺はそういう星のもとに生まれてきたんだ」と、この時なんとなく察したことを今でも覚えている。

そういえば荘内に行ったとき、羽黒山五重塔が工事中だったっけ。

確かに妥協はした。もっと面白そうな案件は山ほどあったが、スピード感を何より重視した。「今後のボーナスに響くから、とにかく宙ぶらりんはごめんだ!」って。

初めての体験だからいきなり上手く行くとは正直思ってはいなかった。思ってはいなかったけど、心が処理するにはもう少し時間を要するらしい。寒いと効率落ちるからね、何事もさ。

アルコール飲んでも冷え対策にならないんだず。

 

昼休みに机に突っ伏しながら聞くMOROHAの音量が日に日に増していったけど、来週はどうなるのかな。

@3zawa94
『さんざんざわ』です。温泉マークは任意でどうぞ。