昨日観た、「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」の感想を書いておく。自分が観たものの記録をしておきたくて書いているのであまり人に見せられるものではないのと、記憶がもう曖昧なので、真に受けないでほしい。
・アニメ映画を見るのが久しぶりだったので、最初ぎこちない感じがしてハマるまでに時間がかかった。
・暗さの演出がよくて、病院内の陰鬱な感じや、村に向かう電車の中などすごく印象的。暗い中で際立って見せられていた日本人形が最後に伏線として回収されていたので、驚いた。
・「水木」の発音が意外。「水木しげる」の100周年の作品で、「総員玉砕せよ!」や墓場の鬼太郎の「水木」とリンクしているような演出もあったけど、発音の差からこれはこれでオリジナルの人物像なのだと理解。
・最初の展開としては閉ざされた村での凄惨な殺人事件ミステリ、という風だったが、村長長田の風貌や長田の部下たちの異形のものに寄せた風貌が妖怪を感じさせる。記者山田やゲゲ郎も水木しげる!!という顔立ちで雰囲気があって期待が高まった。
・序盤の人間関係の説明が水木のセリフで補足されるんだけど、水木は早口でセリフを言う演出がされているので、早さに慣れてないと聞き取るのが難しい。まあ観ていく内になんとなく分かっていく。
・時麿の慟哭がすごく真に迫っていて、正気ではない人間の、でも心からの嘆きが表現されていてわたしの中で良かったポイントだった。
・時弥との会話で、水木とゲゲ郎がそれぞれ未来を語るけど、それぞれの性格が出ていてよかった。あれは、子どもに向けて語るようにして、観客に向けての語りだったと感じた。
・人の死に方がグロいが、あまりクローズアップされてなかったりして、逆に想像力でビビらせるような演出だったかも。
・ゲゲ郎が妻との思い出を語るシーンで、水木もそのうち愛する人が見つかる、みたいな話をしていて、見つからなくてもいいじゃないか、と思っていたので、最終的に水木と沙代とどうにもならなかったのはわたし的にはよかった。
・ミステリっぽい雰囲気で進んできた話が、途中から妖怪大戦争みたいになってきて最高。思いもよらず激しいアクションが入り、モーションもかなり細かくてよかったし、幽霊族強すぎるんだが!?!?!?という盛り上がりもあってよかった。
・途中途中で挟まれる、水木の従軍時の記憶は、おそらく「総員玉砕せよ!」から来ているのだと思うし、水木の考え方は「総員玉砕せよ!」で描かれた弱者が常にひどい目に合うのだ、大義は嘘だった、というところと共通していて、水木しげるの反戦の意思がここで表されていることがすごく良かったと思った。水木は立場が弱く搾取された人間として扱われた(従軍時に地位の低い兵士だった)ことから、戦後力を手に入れてもう誰にも踏みにじられないように、と限界まで戦う人間として描かれていたけど、力に阿る人間として終わるのではなく、権力にあぐらをかいて正義に反することに対しては自分がどうなろうと、また世界がどうなろうと許さないという態度を見せて話が終わったのは良かったと思う。
・あの〜……沙代ちゃんの話なんですけど……ひどすぎませんかね!?!!?!?!!!?!!?!!
・時弥くんもかわいそうすぎませんかね!?!、!?!!?、!!?!!!!!?!!?!!!!!!!!?????!!!!
・沙代ちゃんに関しては、観ていてかなり気分が悪くなったが、水木が同じように体調を崩してそのことに拒否反応を見せていたので、作中でも酷いこととして受け止められていると表されていたのでマシだった。
・よくあるヒロインとして外の世界の男性に憧れて惚れてしまう女の子として描かれてきたと思った沙代ちゃんが、パンフレットでも書かれていたように実は水木のことも恨んでいて最後の最後に復讐をしようと思って消えていったというのはやるせない。かわいそうすぎる。むくわれない。
・時弥くんは本当にかわいそう、もっと最後もゴネて恨みが晴れるわけ無いだろ〜〜〜!!!!と暴れても良かったレベル。
・長田セクシーだね……(声石田さんだしね……)と思っていたけど、病院での最後はかなりよかった。乙米との関係についてはパンフレットでちょろっと書かれていたくらいだけど、なんとなく察するものはあり、描かれていないところが多い分想像の余地が委ねられていていかようにも考えられるので面白いな〜と思う。話の本筋で急に恋愛関係を差し込まれると冷めるんだけど、それって主役級の人たちにいきなりだから冷めるんであって、書かれなかったところに匂わされると自分の好きなように考える余地があるから楽しめるかも。という発見。
・孝三もよかったね〜。
・狂骨との決戦で、どう考えても勝てなくない?と思っていたので、そこでちゃんちゃんこが!?というのはびっくりだったし、慣れ親しんできたアイテムの誕生のきっかけがここだったというのはアツい。しかもその誕生が鬼太郎の泣き声に呼応した幽霊族の祖先の人たちのパワーというところがよかった。ちょっと違うかもなんだけど、ゲゲ郎が時弥くんに「子どもが未来を変えるという気持ちを持って行動すれば未来は良くなる」みたいなことを言っていたのと重ね合わせて良かったと思う。鬼太郎という子どもが親や世界のために上げた声が、巨悪に対抗する力になったのだ、というような。
・ラストの人の死に方はすごかった。壊滅。
・事前に「墓場の鬼太郎」の1話を観ていたので、エンドロールの流れはなんとなく知っていて、なるほどここにつながるのか、と思いながら観た。「墓場の鬼太郎」の鬼太郎と、映画の鬼太郎は人間に対するスタンスが違うので、完全につながるわけではないだろうけど、観ていてよかったと思う。(追記:ゲゲゲの鬼太郎が好きな友だちに聞いた話だと、ゲゲゲの謎は墓場の鬼太郎ではなく、墓場の鬼太郎を受けて作られた?6期につながるとのことだった。)
まとめ
子どもがかわいそうな目に遭う映画だった……。展開はなんとなく読めるところもあるけど、結構常にびっくりしながら新鮮に観ていられたので面白かった。水木しげるの反戦の意思がはっきり読み取れるゲゲゲの鬼太郎の映画、という感じで、水木しげる100周年にふさわしい作品だったと思った。別のブログで女性の扱いや恋愛の有無に注目してレビューをしてるのでその点について書くと、女性の扱いはよくない。家父長制の犠牲になった女性が多く登場する。権力を握る女性も出てくるが、結局その人も一族の存続のためにいろいろなものを差し出しているので最悪。恋愛は沙代ちゃんが水木に想いを寄せているような描写があるけど、水木は全然ピンときておらず、沙代ちゃんの方も水木に現状の打破の期待をかけていたという面が大きかったので、そこを恋愛とは思わなかったかな。ゲゲ郎は愛する妻を探していて、その愛についての描写はかなり丁寧だったし、そもそもゲゲ郎の登場理由は最初から愛する人に拠っていたから、後出しで適当に恋愛が始まるとかいう展開でもないし、全然気にならない。最大の問題は未成年への性加害についてで、キャラクターや一族の醜悪さを際立たせるための設定だと思うが、かなり胸糞悪い。前述の通り作中でかなり激しく批判されており、観る側に性加害の事実を面白おかしく消費させないという意思が感じられたので、まあ、いやだったけど、これをもって話全部がいやになったということはないかな……。
みたいなかんじです。あとから付け足すかも。
追記
水木は立場の低い兵士であった自分の体験から、弱いものが搾取されると言ったけど、戦争においては人間を殺した加害者でもあるよね(冒頭で水木に憑いているのは死んでいった仲間なのかと思っていたけど、沙代ちゃんに殺した人間が憑いたことを思うとあれは水木が殺した人間たちだったのだろう)。長田とかも、裏鬼道として幽霊族や外から連れてきた人間に対しては加害者の立場だったけど、息子を一族のための生贄にされたりして、結局搾取される立場であり、なんとも言えない。加害者と被害者の立場がはっきり切り分けて語れないような難しさがあった。そういうどっちでもある人たちもいるけど、作中のメインの時間軸で搾取されていたのは、子どもや、幽霊族たちだ。階級の差だけでなくて性別や民族としてのマイノリティが虐げられる様子が描かれていたのが印象的で、つらかった。鬼太郎も、結果的には魔の手から逃れられたけど、マイノリティ&非力な子供の立場で搾取の連鎖に巻き込まれそうになっていたし……。一番心に残っているのは沙代ちゃんのことということもあり(沙代ちゃんもまた加害者ではあるが)、搾取(そしてそれへの抵抗)の物語としてわたしはこの作品を見たのだと思う。