テレビには両親がつけていた音楽番組が流れている。自宅ではテレビをつけ流すことがないので、ボーッとそれを見るのはちょっとした非日常感がある。
その音楽番組はNHKで放送されていた「君の声が聴きたい ライブ・エール2024」というもので、番組の締めくくりには出演歌手有志による「雨上がりのエール」という番組オリジナル楽曲が披露された。
大好きな人がいる それだけで 力湧くよ
大好きなことがある それだけで 動き出せる
曲中にはそのような歌詞がある。私と一緒にただボーッと番組を見ていたと思った6歳の長男が、寝る前の布団で急に話しかけてきた。
「本当に大好きな人がいるだけで力が湧くのかな?おれには大好きな人たくさんいるよ」
一瞬戸惑った私は、「大好きな人の分だけムキムキになれるんじゃない?」と力こぶのポーズをして戯けてみせた。すかさず長男が返答する。
「そういうことじゃないと思うよ。守りたいとか、そういう心が広がる力のことなんじゃないかな」
思わず、iPhoneを手に取りその言葉をメモした。
なんて素敵な感性を持っているのだろう。心が広がる力、なんて表現を私はできない。きっと心の豊かさのような意味合いなのではないかと勝手に解釈してしまう自分がいたけれど、もしかしたらそれも的を得ていないかもしれない。
この少年がこれから色々な経験をして、語彙を増やしていったら、どんな表現をしてくれるのだろう。親バカかもしれないが、とても楽しみになった。
翌日、帰省から戻り自宅で食卓を囲んでいると、長男はYouTubeのゲーム実況を見て得た知識を延々と夫に話していた。それを聞いて夫は「脈絡もなく話すから何のことかわからないよ」とストレートに長男に伝えた。
すると長男はムッとして「母ちゃん!昨日のメモを父ちゃんに見せて」と言う。メモを見せる代わりに、私は夫に歌番組を見て長男が発した言葉がとても素敵な表現だったことを話した。それを聞いた夫は素直に感心していた。
私は、長男がこのエピソードを自分の良い点としてアピールしようとしたことが何だか微笑ましかった。こうして、彼の中に長所短所の自己分析ができていくのだとすれば、素敵だと思ったところを惜しげもなく彼に伝えていくことは親の勤めなのだろうと今更ながらに思った。