発砲音でお互いの場所を確認するのわのSS

839
·

(ヘテロスタシスのようななにか)

静かすぎる街の中で、破裂音が響いた。ある程度距離の離れたそれに心当たりは少なからずあって、無線機を操作して名前を呼ぶ。

「今の音、葛葉?」

音と一緒に白い息が漏れて、軽いノイズが一緒に乗っかってあいつの声がこちらに届いた。

『あー……そう、俺』

「なんかいた? そっち行こうか」

『なんか黒っぽい……蝙蝠みたいな。でもどっか行ったわ』

「どっち飛んでった? こっち?」

背負った銃の照準を鉛色の空に雑に合わせて、無線機をオンにしたまま引き金を引いた。発砲音は葛葉に届いただろうか、どう?と確認しようとしたところで、なにかの羽音が聞こえた気がした。

「………鳥?」

『…………ぃ、おーい、かなえぇー?』

「……あ、ごめん。どう?」

『そっちには行ってなさそ』

姿の見えない鳥かなんかに気を取られているうちに、ザリザリと砂嵐みたいな音に紛れて葛葉が僕を呼んでいる。無線のバッテリーだって潤沢にあるわけじゃないのに、気づくのが遅れてしまって悪いことをした。

「ね、こっちにもなんかいたかも」

『まじ、大丈夫そ?』

「多分どっか行った。白かった」

ふわりと僕の肩に落ちてきた、まるで天使の羽のようなそれを摘み上げる。さっき飛んでったやつの羽根だろうけど、あんまりにも綺麗な白色をしていて現実味がない。これを蝙蝠と表現するのは、流石のあいつと言えどあり得ないだろう。葛葉のところにいた奴とは別と考えた方が良さそうだ。

「もっかい鳴らして、そっち向かう」

『ほい』

三度目の空を割く音がして、葛葉も移動していたのか思いの外近い場所で空が震えた。それにしても、こんな同じタイミングで、僕らが認識する距離に同じような生物がいるなんて。なんだか遠くから観察されてるような、そんな嫌な空気が肌を刺す。どちらにせよ、あいつとはやいところ合流したほうがよさそうだ。

「おっけー把握した、そのままこっち進んでて」

『りょーかい』

何者かはわからないけれど、実害は無いからとりあえず放置でいいだろう。見たけりゃ好きなだけ見ればいいと思う、僕らはきっと観察されるのはすっかり慣れっこだから。

@839saku
生きてて楽しい SS書くかも