(ヘテロスタシスのようななにか)
静かすぎる街の中で、破裂音が響いた。ある程度距離の離れたそれに心当たりは少なからずあって、無線機を操作して名前を呼ぶ。
「今の音、葛葉?」
音と一緒に白い息が漏れて、軽いノイズが一緒に乗っかってあいつの声がこちらに届いた。
『あー……そう、俺』
「なんかいた? そっち行こうか」
『なんか黒っぽい……蝙蝠みたいな。でもどっか行ったわ』
「どっち飛んでった? こっち?」
背負った銃の照準を鉛色の空に雑に合わせて、無線機をオンにしたまま引き金を引いた。発砲音は葛葉に届いただろうか、どう?と確認しようとしたところで、なにかの羽音が聞こえた気がした。
「………鳥?」
『…………ぃ、おーい、かなえぇー?』
「……あ、ごめん。どう?」
『そっちには行ってなさそ』
姿の見えない鳥かなんかに気を取られているうちに、ザリザリと砂嵐みたいな音に紛れて葛葉が僕を呼んでいる。無線のバッテリーだって潤沢にあるわけじゃないのに、気づくのが遅れてしまって悪いことをした。
「ね、こっちにもなんかいたかも」
『まじ、大丈夫そ?』
「多分どっか行った。白かった」
ふわりと僕の肩に落ちてきた、まるで天使の羽のようなそれを摘み上げる。さっき飛んでったやつの羽根だろうけど、あんまりにも綺麗な白色をしていて現実味がない。これを蝙蝠と表現するのは、流石のあいつと言えどあり得ないだろう。葛葉のところにいた奴とは別と考えた方が良さそうだ。
「もっかい鳴らして、そっち向かう」
『ほい』
三度目の空を割く音がして、葛葉も移動していたのか思いの外近い場所で空が震えた。それにしても、こんな同じタイミングで、僕らが認識する距離に同じような生物がいるなんて。なんだか遠くから観察されてるような、そんな嫌な空気が肌を刺す。どちらにせよ、あいつとはやいところ合流したほうがよさそうだ。
「おっけー把握した、そのままこっち進んでて」
『りょーかい』
何者かはわからないけれど、実害は無いからとりあえず放置でいいだろう。見たけりゃ好きなだけ見ればいいと思う、僕らはきっと観察されるのはすっかり慣れっこだから。