にじ高エースが監督になってあれやこれやの話です。にじそうさく06にて頒布した無配ペーパーでした、当日はありがとうございました!
星に願う
ずっとなんて、無いってわかっていた。
永遠だとか、一生変わらないものだなんて、
そんなものは夢物語だって。
僕が一番知っている
*
いつだって思い出すのは、あの夏のたった一日のことだった。壊れた蛇口みたいに流れる汗が煩わしくて、ただでさえ霞む世界が余計にぼやけて見える。
それでも、十八メートルちょっと先のミットだけは、そこだけは不明瞭な世界の中でもしっかりと見えた。そんな自分のまるで野球馬鹿な身体に、乾いた笑いがこぼれる。
三年間、最後のあの日まで楽しかった、ただ単純に。勝ちたかった、もっと投げたかった、終わりたくなかった、勝たせたかった。
たったひとつの居場所を失いたくなくて、あの日もたしか″ずっと″を願ったような、
「監督?」
僕のすぐそばで、声がした。はっとして瞬きを何度か繰り返していると、ベンチの外から僕を覗き込む三対の視線が僕に突き刺さっている。
「おーい、監督ぅ」
「叶さーん、生きてる?」
そうだ、監督って、僕だ。
「監督、おなかいたい?」
「……あ、ごめん。慣れなくて」
「えー! まだ慣れないの!」
三人の笑う声が、僕のことを監督と呼ぶ声が、どうしようもなく心地良く感じられる。
「帰ろーよ、叶さん」
「……うん、みんな今日もお疲れ様」
もう肩は痛むことも無いし、じりじりと肌を焼くような太陽からもずいぶん遠くなってしまった。よいしょ、とベンチから腰を上げて、すっかり帰り支度を整えたみんなに合流する。
今日の試合はダメだった。相手は強豪校で、僕らも頑張ったけれど負けてしまった。それでもめげずに元気な姿のチームメンバーに安心する。まだチャンスはあるし、甲子園は来年だって再来年だってある。
もちろんその次だって、この先何年も僕の監督人生は続いていくと思う。けれど、その時には。
「……一生このままがいいなぁ」
ずっとがないことも、高校野球の三年間はあっという間だってことも。そんなこと、自分が一番痛いほど知っている。
「叶さんなんか言った?」
「いや、なーんにも」
どんなに望んだっていつかは絶対バラバラになるこのチームを、甲子園に連れて行くのが僕の仕事だ。この子たちにもあの景色を、あの熱さを、あの熱狂を、なんとしても。
「頼りにしてるよ、エース」
「任せて。うち一生投げるから」
「あたいもバッチリ守るかんね!」
「俺だって絶対ホームラン打つから!」
あの頃はマウンドだけが僕の居場所だ、なんて思っていたけれど。今ではすっかり、この近くて遠い場所が僕の特等席になっている。
僕の仕事とは言ったけれど、神様でも魔物でも流れ星でもなんでもいいから、どうかこの子たちが最後まで楽しめるように。なんて、つい祈ってしまいたくなった。
2020.05.07