映画/桐島、部活やめるってよ

ちゃん
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公開:2024/5/29

2012年、朝井リョウのデビュー作である小説の映画化。

男子バレー部のキャプテンである「桐島」がある日突然部活を辞めた。

桐島の友人である宏樹、桐島の彼女の梨沙、その友人の沙奈、桐島と同じ男子バレー部の小泉、バトミントン部のかすみと実果、吹奏楽部の沢島、映画部の前田。

「桐島が部活を辞める」、ひとつの出来事で生じる高校生たちの人間関係を描く。

めちゃくちゃ文学的な映画だな〜!という感想。神木隆之介が桐島だと勝手に思ってたけど全然違った!!笑

朝井リョウさんは人間関係の描写の鋭さが特徴が魅力だと思うのですが、この作品も学校生活にある「カースト制度」を痛いほど描いています。

起承転結のある、ストーリー性を楽しむ映画というよりはそういう共感性を刺激されて、登場人物の気持ちに心を寄せて自己を省みる……というタイプの映画で、さすが原作・朝井リョウ!というバラエティに飛んだ、でもどこかに「いたよね〜」というキャラクターが作中には登場します。

特に、学年のマドンナである梨沙(山本美月ちゃん・とてもかわいい)の取り巻きの沙奈役が松岡茉優ちゃんなのですが、まだ出始めの頃の作品なのにま〜〜芸達者。めっちゃイヤな女の子なんだけど、なんかいるよね、いたよな……ってなるんだよね。うますぎる。

他にも橋本愛ちゃんや神木隆之介くんや仲野太賀さんなど若かりし頃の今をときめく俳優さんたちが出演されており、思春期を繊細に演じてくださっています。

ひとりひとりのセリフとか、そのセリフを言いながらの視線の感じとかで気持ちが伝わってくる。中身としてはただの高校生の日常で大きな出来事はない、桐島が部活をやめるというその付近の1週間の話なので、流し見してると淡々と進んじゃうので作業用には向かないかな。腰を据えて見たい映画です。

特に映画部の前田くん(神木隆之介)と、野球部幽霊部員の宏樹(東出昌大)の最後のシーンがよかったな。

なんでも出来て、実際クラスの一軍の宏樹と、いわゆる三軍の前田。でも、宏樹は前田のように熱中するほどの「何か」を持っていません。最後、宏樹が前田の言葉に涙したのは、そんな自分の空虚なところに気が付いたからかな…と私は感じました。

作中の宏樹のセリフ通り「できる奴はできて、できないやつはできない」、その「できないやつ」とどこか決めつけていた前田や野球部が将来のキャリアにつながらない、それをわかっていながらも一生懸命やっていることを知って、自分の臆病さに気付いたんじゃないかなあ。宏樹は一生懸命になって、何者にもなれなかったら格好悪いと思ってるんじゃないかな。でもその「一生懸命になる」ことが、なった経験が、自分が一生懸命になれたという記憶が大人になった時に自分を助けてくれることってあるよね……。

ラスト、おそらくがんばる価値を見い出せないと評価を下した野球部が夜遅くまで練習している姿を見た宏樹は何を思ったのか…、この映画のラストが宏樹にとって始まりであり、また視聴者にもどこか 何かに情熱を燃やしたことはあるかと問いかけているような気がしました。

学生時代は振り返ってみれば青春とひと言で片付けられてしまいがちですが、学校という狭い世界がすべてだった閉塞感や不確定な未来へのもやもやした気持ち、キラキラとした青春だけじゃない、そこに生きていた時のリアルな気持ちを思い出す映画でした。でもなんか、それすらも大人からしたら眩しいんですけどね。

そういう気持ちを揺り起こしてくれる、俳優さん達の丁寧な演技も邦画のそういう繊細なところが好きだなと思えた映画でもありました。本も読んでみたいな〜!

でも朝井リョウの文章でダイレクトに殴られるのと、そこに自分もいるかのようにひとりひとりの気持ちを想像しながら映画を見て痛い気持ちになるのと、どっちがカロリー消費するんだろう……。笑

@86_note
ふれたものとか