奇妙な格好をした主ではあったと初期刀は思う。破れて乱雑に縫い付けた糸目のある麻袋を被って体躯に見合わない斧をいつも引き摺っている。薄汚れたボーダーの白黒のシャツに青いデニムの、これまた膝に繕い跡があるオーバーオール、靴下はシャツと同じ柄のものだが片足しか履いていないで、もう片方は裸足。いつどこを歩くにも、いかにも目立つ。何より、隠されていない肌は手も足も真っ青で、特殊メイクとも見えるのだが、よくよく見ればそれは違う。まちがいなく、肌は青い。血の気の失せた死体よりも。けれどそれは初期刀と少しだけ共通点があった。頭にすっぽり被った主の麻袋、選ばれた刀である自分の形として、初期刀は薄汚れた布を被って、自分の姿を隠していた。聞けば主はそれを知って自分を選んだのだという。嬉しいやら複雑やら。下から顔を覗き込んでくる主の顔は見たことがないが、態度と同じできっと年相応なのだろう。ぼくはずっとこのままだよ。成長しない主と決して短くない年月を過ごした初期刀は、はじめの頃は戸惑っていたが、今は主を、ほんのたまに名前で呼ぶ。その他はたまに、職業―――通称で呼ぶ。請われるからだ。ここにいる間も、自分が何者であるかを忘れたくないと言って。主でも名前でもなく、普段使われている通称で呼ぶことを。
泣き虫と呼ばれて嫌でないのだろうかと、山姥切国広は思う。でもぼくはそうだからと主は言う。
たまの仕事、と称して本丸を空けるとき、山姥切国広はそれに付き添って本丸を空ける。何をしているかも知っている。………人を追いかけ回している。赤くぼろぼろの装飾をされた椅子に人を座らせて、空の彼方へ追いやっている。四人ほどをそうした後は機嫌がいい。一人もそうできなかったときは、ぐずぐずと泣いて山姥切国広にしがみついて本丸に帰る。襤褸布の下の敗れたグレーのスラックスに、頭の麻袋を押しつけて。
本丸は、ネズの木と、主が持っている苗からすぐ成長する安息松で庭を覆われている。日本家屋はどこへやら、平屋建てだが土地は広く使われた洋風の大きな大きな家と言える本丸で、主はご機嫌に眠る。今日は仕事はうまくいったそうだ。