今回は、同人誌の紙を選ぶ時にどんな要素に注目しているかについて書きます。
紙の重さと厚さとやわらかさ
以下URLはOKアドニスラフWという紙のスペック表です。
紙の重さと厚さを示す数値がいろいろ記載されていますが、これらには以下の意味があります↓
連量:ある大きさの紙1000枚あたりの重さ。単位はキログラム(kg)。斤量ともいう。
米坪:紙1平方メートルあたりの重さ。単位はグラム毎平方メートル(g/m^2)。坪量ともいう。
紙厚:紙1枚あたりの厚さ。単位はマイクロメートル(μm)。
連量と米坪はどちらも紙の重さのことです。とくによく使うのは四六判換算の連量ですが、分厚い板紙などでは米坪が使われることもあります。
紙厚は文字通り紙の厚さで、背表紙の大体の厚さを計算する時に必要になります。
同人誌制作においては、実は紙の重さがとても重要な気がしています。
なぜなら重いと搬入が大変だから…。とくにページ数の多いアンソロジーや再録集とかだとその影響はでかいです。
ならば薄い紙にすればいいかというと、そうとも言いきれません。
薄すぎると漫画などで裏の印刷が透ける心配が出てきたりしますし、あとシンプルにぶあちい本を作りたい気持ちもあったりするので。
そんな時の心強い味方が、嵩高紙(かさだかし)。
空気をたくさん含むため密度が低くて、厚くても軽い紙の総称です。
どれくらい厚くて軽ければ嵩高紙と言えるのか明確な基準は聞いたことないですが(あるならぜひ知りたい)、紙の説明に嵩高紙と書いてあればそうなんだと思っています。
嵩高紙がどれくらいかさばるか
試しに、嵩高紙とそうじゃない紙でA5判120ページのアンソロジーを100冊つくった時の重さと厚さを比較してみます。
比較する紙は以下の2種↓
同じくらいの紙厚のもので、四六判で連量56.0kg(紙厚127μm)のモンテシオンと、連量90.0kg(紙厚120μm)の上質紙でそれぞれ計算すると以下のようになりました↓
モンテシオン56.0kg:1冊あたり121.2g(厚さ7.62mm)、100冊で12.12kg
npi上質90.0kg:1冊あたり195g(厚さ7.2mm)、100冊で19.5kg
1冊あたりの厚さはモンテシオンの方が厚くてボリューミーなのに、重さはnpi上質の方が1.5倍以上重いと言う結果に。
単純な比較ですがこうしてみると思ったより差があって、嵩高紙ってすげーと改めて思います。100冊つくると宅配便の配送料金が変わるレベル。
本の開きやすさにこだわるなら
本になった時の開きやすさにこだわりたい時は、紙のやわらかさなどを気にしています。
やわらかさの数値的な指標はとくになさそうですが、一般に密度が高くて塗工もしっかりされている紙より、密度が低く塗工が少ない嵩高紙の方がやわらかい傾向があるように思います。
とくにページ数が多い本は分厚くてもやわらかい嵩高紙にするか、嵩高じゃないならより薄めの紙にするのが良さそうです。
やわらかさの他に本の開きやすさに大きな影響を与えるものに、紙の流れ目というのもあります。
スペック表でT目(たてめ)とかY目(よこめ)とか書いてあるものですね。これは紙を製造する過程で発生する、繊維の方向が一定方向に流れてそろった状態のことを指します(詳しくはこちらの説明がわかりやすい→ takeopaper.com 紙の流れ目)。
紙を本のかたちに仕上げた時に、流れ目が本の背と並行だとページが開きやすく、垂直だと開きにくくなります。
ただ流れ目については、私はあまり気にしていません。紙をどう折って切って本のかたちにするのが都合良いかは状況によって変わりますし、その道のプロにおまかせした方が良い部分だと思うので。
入稿時に「絶対に開きにくい本にしてください!」とか言わない限りは、印刷所の方で(なるべく)良い感じにやってくださると思います。
(あとは中綴じやPUR製本などの開きやすい製本方法にするというのもとても重要なのですが、今回は紙の話なので割愛!)
紙の化学的性質と保存性
印刷用紙の分類には上質紙と中質紙という区分があります。
これらは成分や保存性に違いがあって、それぞれ特徴は以下のような感じ↓
上質紙:原料が晒化学パルプ100%で、紙が変色する原因のひとつであるリグニンを含まないので保存性が高い。
中質紙:原料が晒化学パルプ70%以上+古紙パルプなどで、リグニンを含むため環境によっては黄色く変色しやすい。
上質紙はアート紙やコート紙などいろいろな種類があります。いわゆる書籍用紙(=書籍の本文に良く使われる紙)もこの仲間。
一方の中質紙も種類が多く、素朴でラフな質感の良さもあって用途は広いです。
長持ちしてほしい本を作るときはぜひ上質紙を選びたいところですが、逆の発想で紙の劣化も含めてその本の「味」とする場合もあるので、それぞれの特性を理解したうえで使い分けていきたいなと思っています。
酸性と中性
紙の化学的性質に関しては酸性か中性かという区分もあります。中性と中質、似てるようで違う話なのでややこしい。
酸性紙は酸性物質を含み、それによって紙のセルロースが分解されてしまうため時間が経つとボロボロになってしまうという悲しい特性があります。
中性紙はそのような問題を克服するために作られた、中性〜アルカリ性の紙です(詳しくはこちらの専門的な解説がおもしろい→ 文書管理通信No.27, p.2-13)。
まとめると、本の劣化しにくさを強く望むなら上質紙かつ中性紙を選ぶのが大事と言えそうです。
なお、いまある上質紙の多くは中性紙なようですが、明確な基準があるわけでもなさそうなので、不安な場合は説明文に中性紙だよと明記されているものを選ぶようにした方が良いのかなと思いました。上述したnpi上質などは中性と明記されています。
紙の表面塗工と発色
紙には表面に石灰成分を含む塗料をコーティングしたものとそうでないものがあります。
このコーティングは紙の表面をなめらかにしたりインキのノリをよくしたりするためのものなので、塗工量が多いほどインキの発色が良く仕上がりがあざやかです。
紙は塗工量に応じて以下のように区分されます↓
塗工紙:塗料をたっぷり塗ったもの。
微塗工紙:微量に塗ったもの。
非塗工紙:ぜんぜん塗ってないもの。
上質紙をベースにした塗工紙はさらに塗工量によってA0〜A3にランク分けされ、最も塗工量が多いA0はスーパーアート紙、続くA1はアート紙、ひとつ飛ばしてA3は軽量コート紙と呼ばれることもあるようです。
使い分けとしては、表紙や口絵、イラスト集などで色を鮮やかに魅せたい場合は塗工量の多い紙が選ばれやすく、発色の良さがそこまで求められない本文用紙などでは非塗工や微塗工の紙にするというのが一般的な気がします。
なお和紙や画用紙のようなざっくりした風合いの紙は、非塗工の場合が多いためか印刷した時の発色はあまり良くない(=色が沈みやすい)傾向があるのでちょっと注意が必要かもしれません。
表面の質感の違いでも区分がある
塗工紙は表面の光沢具合や印刷した時の質感によって、グロス系、マット系、ダル系に分かれます。
グロス系:表面がなめらかで、テカテカと強い光沢があるタイプ。
マット系:表面の光沢があまりないつや消しタイプ。
ダル系:印刷してない表面はマットでインキがのったところだけグロス感がでるタイプ。グロスとマット両方の性質を併せ持つ♦️
よく聞くコート紙がグロス系で、マットコート紙がマット系です。
ダル系と似た特徴を持つ紙で、ラフ・グロスと呼ばれるものもあります(この名称は竹尾の商標らしい→ takeopaper.com よくある質問)。
個人的にはダル系やラフ・グロスの相反する質感がおもしろくて気になりがちです。
白さと色
スペック表には白色度が記載されていることがあります。
これは紙の白さの程度を指定の試料に対する比反射率で表した数値だそう。つまり白さってコト。
例えば前述のnpi上質は白色度88%。OKアドニスラフは白色度の違いによって名称が異なる商品ラインナップになっています。
ちなみに新聞紙は54%程度です。
白色度は、気になってる紙のサンプルが手に入らないけど手元にある紙の白色度は調べてわかった…!という時になんとなくの指標になるかもしれません。
ただこれだけだと、黄みの白なのか青みの白なのかなど具体的な白の印象はわからないので、あくまでなんとなくです。
白以外の色について
色みや発色については比較できる指標はとくになさそうなので、実物を見て好みのものを探すのが一番です。そりゃそう。
参考までに手元にあった赤い紙を並べてみました。

色みも鮮やかさも結構ちがっててびっくりします。よくお世話になる色上質は比較的値段がひかえめなのもあってか発色もちょっとひかえめ。
そういえば、実は色上質にはいくつか種類があります。
日本の色上質(日本製紙)、大王の色上質(大王製紙)、紀州の色上質(北越コーポレーション)、竹尾の色上質(竹尾)とあり、メーカーが違うため同じ紙色でも色名が違っていたりその逆もあったりなどするようです。印刷所によってどこのを取り扱っているか変わるので、ちょっと気にしてみてもおもしろいかもしれません。これ豆な。
以上、紙のスペック表を見つつ紙を分類する要素についてまとめてみました。
スペック表の見方がわかれば紙を選ぶ時に多少は自信が持てるかもと思い自分用にまとめてみたものですが、どこかで誰かのお役に立てば幸いです。
重いか、厚いか、嵩高か、上質か中質か、酸性か中性か、塗工が多いか少ないか無いか、グロスかマットかダルか、どれくらい白いか……いろんな基準でいろんな分類があって、改めて紙の深淵を覗いてしまった気持ち。