普段ほとんどテレビドラマを観ない人間の感想です(朝のドラマをちゃんと観たのは2007年の「ちりとてちん」以来です)。
ドラマの内容に言及しています(最終週については言及していません)。
橘センパイこと翼和希さんが格好いい、というだけの理由でなんとなく注意して観るようになったが、とても好感の持てるドラマだった。スターとして上り詰めていく主人公の成功を描く一方で、明るく前向きなだけではどうにもならないことや、世間的に見て成功者にはなれなかった人間の無念さ、やるせなさを丁寧にすくい上げた作品だと感じている。
もちろん、パフォーマンス・シーンもすばらしい。「ラッパと娘」という曲のことはそれまでまったく知らなかったのに、スズ子がステージで歌う場面を観たあとは、この先「東京ブギウギ」を歌うシーンが来てもこれよりすごいシーンにはならないんじゃないかと心配したほどだ。迷いを振り切り東京を去る秋山美月が、汽車の中で披露したタップダンスのシーンも大好き。役者さんに疎いので、スズ子の古い仲間として後々まで登場するのが彼女だということは当初予想できなかった。
そして、何よりもよかったと感じるのは家族のシーンだ。スズ子が母親となったあたりから、「ブギウギ」は家族の暖かさを描くと同時に、ドラマ全体を通じて「家族のあり方に理想のモデルなどなく、それぞれが模索して作りあげていくべきものだ」と伝える作品ではないだろうかと考えるようになった。
スズ子と両親の関係。「血は繋がっていなくても家族は家族」と言うのは簡単だが、スズ子と花田家の両親とのあいだには血の繋がりを持たないがゆえの引け目や葛藤もまたあり、スズ子たちはその事実と時間をかけて向きあっていかなければならなかった。時には衝突することもあったものの、そのことは彼女たちが家族としての意識を再確認するための大切な過程だったはずだ。
シングルマザーとなり、育児も仕事も何もかもわがこととして抱え込み苦しむスズ子が、大野の出現によってようやく背負い込んでいたものから解放されるシーンもそうだ。このシーンは一人で苦しむ人々への「家族のことだからと自分一人で解決しようとしなくてもいい、だれかの力を借りてもいい」というメッセージのようにも取れるし、愛する人を亡くしたスズ子が娘とともに新たな家族の輪を築いていくための一歩を踏み出した場面のようでもある。趣里さんと木野花さんの静かな演技がとてもよい。
成長した愛子の描かれ方もよい。彼女は「主人公に反抗し、足を引っ張る困った子供キャラクター」ではなく、子供ではあるが自身の意見や主張を持ち、友達との約束を重んじる個人として描写されている。母と子の問題を解決するのは豪華な誕生パーティーや誘拐犯の逮捕劇ではなく、あくまでも母と子の対話だった。そうした様子を丁寧に描いた点がこの作品らしく、とてもすてきだ。
雑な感想の列挙になってしまった。好きなシーンはほかにもあるが、まとめきれないのでこのへんで。