2年前の話ですが、記録に残しておきたかったので書きました。
本を作る気になるまで
わたしが小説を書き始めたのは2022年の1月のことだ。それまでなんの蓄積があったわけでもなかったが、とある歴史上の人物を題材にした小説が読みたくて読みたくてたまらなくなり、勢い任せに20,000字程度の短編を書いた。
書き上がるころには本にしたいという欲求が生まれていた。コンビニのコピー機を使って小冊子が作れることはわかっている。でも、せっかくだからホチキス針のついていない本が作りたい。2月には小説の題材にした人物の誕生日があるし、その人は読書家・愛書家として知られた人物でもあるから、洒落たこじつけができると思った。
きれいな製本にこだわった理由はもうひとつ。中学生のころ、同級生の中にアニメのパロディ漫画を描いている女の子がいて、わたしは同じ学年の子がまるで修学旅行や卒業記念の文集のようなきれいな本を作っていたことに憧れた。自分の身近に同人活動をしていた人がいたのはたぶんあのときだけだったと思うが、あの格好いい無線綴じの同人誌のイメージだけは鮮烈に記憶していた。
印刷所に入稿する
さて、当初心配していたのは印刷にかかる費用のことだったが、オンデマンド印刷で1冊から、それも手頃な値段で印刷・製本してもらえるとわかり、驚いた。ただ、なにぶん初めてのことで、やるべきことに対して脳の処理能力が追いつきそうもない。印刷所によっては早期の予約が必要なところもあるようだ。それに、本のサイズは? 用紙は? 表紙はPP加工する? 扉や奥付ってどう作ればいい? 丁寧に解説しているサイトがたくさんあってありがたいが、自分に経験がないことで尻込みしてしまう部分もある。
幸い、便利なツールがたくさんあるようなので、頼れる部分は頼ろうと思い立った。小説本文の整形やPDF化、扉・奥付ページの作成は株式会社シメケンの無料ツールを使い、印刷も同社に頼むことにした。シメケンさんの場合、予約はなく、作りたい本の仕様を選び、注文をすると入稿と支払いの案内のメールが送られてくるのでその指示に従えばいい。
遊び紙やカバーについては今回は見送ることとし、本のサイズはあちこちの解説サイトで「一般的な小説同人誌のサイズ」としておすすめされていたA5サイズ、レイアウトは2段組みとした。本当は2段組みの本はあまり好きではなく、A6サイズが望ましいと感じたが、今回の文字数では40ページ程度にしかならず、文庫本として物足りないものになりそうだ。
残る心配ごとは、表紙をどうするかだ。わたしは絵が描けず、画像編集ソフトもGIMPというフリーソフトを少し使ったことがある程度だった。前述のシメケンさんには表紙作成ツールもあるし、ほかに、同人誌表紙メーカーといった便利なサイトもあるが、自分の小説のイメージに合いそうなデザインがない。
結局、Canvaを使ってフリー素材にタイトルの文字を入れた。解像度や塗りたし、裁ち落としといった馴染みのない概念を理解するのにずいぶん苦戦をした。下手をしたらここで挫折をしていたかもしれないのだが、結果的によい勉強になった。
ともあれ、こうしてわたしはすべての原稿のデータを作り終え、印刷所に入稿した。本文28ページ+表紙4ページで、送料込み1,260円だった(2022年2月当時)。小説を書くことはもちろん、それを本にするという行為は難しくも刺激的で、胸躍る体験だった。あんな素敵な体験がこんな安価でできるのなら安いものだ。
初めての本を作ってから
入稿・入金の確認のメールが来てから7日後に、完成した本が届いた(入稿日から10日以内に届く通常のコースを利用した)。憧れの無線綴じの本だ。
正直にいえば、完成品が届いたときの感動は、無事に入稿を終えたときの達成感に比べると微々たるものだった。ページをめくり、そこに自分の書いた文章が印刷されていたことは嬉しかったものの、満足よりも、次はあんなふうにしたい、こんなふうにしたいという思いのほうが強かった。ためしに1冊作ってみたことで、自分が作りたいもの、やってみたいことがより明確になったということだろう。
かくして、小説を書くこと、そしてそれを本にすることがわたしの趣味になった。以来、毎年2月に「新刊」を出すという小さな目標をたてて、空いた時間を利用して書いている。書いたものをだれかに読んでもらおうという考えは今のところなく、自分一人で楽しむのにとどまっているが、趣味のかたちとしてはそれもありだろう。