とうとう暖房をつけた。とうとう羽毛布団に変えた。ヒートテックも着るようになった。日を重ねるにつれ、冬が大股で近づいてくる。勘弁してほしい。ただ、水道から出てくる水が夏に比べてずっとつめたくて、それが嬉しかったりする。まあ、嬉しいことと言ったらそのくらいなのだが……。
無印週間で前々から欲しかったせいろを買い、そのせいろを手に入れてからというもののなにかと蒸し料理を作るようになった。せいろ、ビジュアルがまずかわいくていい。せいろで食材たちを蒸しているあいだは他の家事ができるのもいいし、何より蒸気を吸った木の独特のしめったにおいが部屋に充満するのがいい。食材は蒸すと薄い味付けでもとてもおいしくなるし、毎日蒸したいくらいだ。
そんなせいろを使ったりした今週のご飯。
「いるかにうろこがないわけ」というシューティングゲームをswitchで始めた。これはあの、「ファミレスを享受せよ」の月間湿地帯さんの過去作品である。
64ある短いステージを連続でクリアし、ステージクリアごとに得られる『ページ』を読むことで、「いるかにうろこがないわけ」を解き明かしていく、といった内容のゲームとなっている。基本的には4ステージクリアごとに弾に付与するスキル(発射する弾数が増えたり弾が大きくなったりする)や強化要素(敵の弾を消したり一瞬早く動くことができたり)をもらったりしながら、16ステージごとに発生するボスを倒して進んでいくだけだ。とはいえこのゲームは何かと残機数が厳しい。残機はステージクリアごとに増えたり回復したりもするが、弾数は一つしかない上に敵を倒さなければ回収できない仕様となっており、敵に発射した弾を外してしまったりして回収できない場合は自ら体当たりして残機を減らしてでも敵を倒し、弾を補充するしかない。なんとも緊張感のあるシューティングゲームだ。
「ファミレスを享受せよ」が好きな人は絶対に惹かれるだろうBGMや雰囲気が大変良くていいゲームなのだが、何より普通に難しい。64ステージを連続でクリアって、そんなのできるのか……!? という感じだ。わたしは今32ページくらいまで進んでいるものの、正直ボス戦は毎度初見殺しに等しいので攻略を知る前に死ぬし、またやり直すには集中力が絶妙に持たない。まあ、毎日数回やってのんびり挑戦していきたいと思っている。それに、「いるかにうろこがないわけ」がだんだんとわかるのは面白い。月間湿地帯さんのこの質感の物語が好きなんだよな……。とはいえ自分が頑張らないとページが更新されないもどかしさといったら、ないのだが……。
職場での一件が落ち着いたことで久々に出社でき、同部署の同期にお疲れ様会をしてもらった。同期の予約してくれた店でクリームソーダを注文し、美味しいものを食べ、いろいろと話を聞いてもらった。有難い。
山登りが好きな会社の同期に誘われ、急遽山を登りに行くことになった。その同期には以前から、2024年にやりたいことリストとして挙げている中に「山に登る」があることを伝えていて、じゃあ行こうと言われてはいたのだが、まさか本当に誘ってくれるとは……といった感じだった。朝6時に迎えに行くから、という文面に、果たして万年夜更かし人間が無事に起きられるだろうかという不安がよぎった。
前日無理やり11時前に寝ることで、なんとか5時ごろ起きることができた。身支度をし、同期に伝えられていた準備物をリュックに入れ、家の前まで来てくれた車に乗り込む。会社の先輩と同期2人、それからわたしという4人で向かったのは奥久慈男体山という関東百名山に選定されている山だった。標高は653mあって、スカイツリーよりも高い。登って降りるまでは3時間~4時間かかる。でも初心者にも登りやすい山、らしい。
しばらくのあいだ先輩の運転してくれている車に揺られているとだんだん鬱蒼とした道に入っていき、やがて山のふもとに到着する。車から降りた山の近くは朝ゆえかすこし肌寒くて、指さきがかじかみ始めるくらいだった。空気がしんと冷えていて、朝早くから山登りに来ている人たちとあいさつを交わす声が淡々と空気を渡る。寒がりなわたしはふるえて足踏みをしては腕をさすり、山登りに慣れている他の3人が靴を登山靴に履き替えたりして準備を終えるのを待っていた。
山の入り口に立って、「同期」「わたし」「同期」「先輩」というような順番で一列になって登り始める。朝の山は夕方みたいに暗い。木々には頂上までの道なりを示すための鮮やかな色のリボンが結われていて、それを目印に進んでいくのがセオリーなのだという。
山登りをすること自体ほとんど初めてでであるわたしは、登り始めの時点でかなりぜいぜいと言っていた。というか登り始めのころが一番きつかった。普段ろくに運動をしておらず当たり前に体力が無いのもそうなのだが、当然山はずっと登り坂で、しかもその坂の角度が急結構で、普通にそれがきついのだ。自分の目や鎖骨のあたりにある岩が次の足場だったりして、かなり足を上げて歩き続けなくちゃいけない。全力でラジオ体操をやる時みたいに、アキレス腱とふくらはぎを伸ばしきったあの体勢でずっと登る感じだ。登り始めて10分くらい経つと、寒いからと着ていたアウターはもう脱いでいた。
よいしょと言いながら歩いている間は、先輩のリュックについていた熊鈴がずっとりーん、りーんといって山道に響いていた。わたしは熊鈴の音を初めて聴いたのだが、あれはなんとも不思議な音がするというか、唯一無二の音色だと思う。ひびきがいちいち長くて面白いし、奥行きがある音というよりは距離のある音という感じだ。木々を抜けて遠くまで届く。
30分ほど歩くと、薄暗かった山道にも陽が射しこんでくる。休憩がてら水を飲んだりすこし休憩をしようと立ち止まるとそれだけで寒くて、わたしは歩いている間に脱いだアウターをまた羽織ったりしていた。寒い時期の山登りは体が暑いのに反して手がつめたくなる。上から降りてくる人に道を譲り、挨拶をして、なんだかいいなあと思ったりしながらまた登る。山頂が近づいてくると視界は一気に明るくなって、ふと見渡した先の景色が随分上から見たものになっていることに驚いたりしていた。青みがかった山の群れに注がれる太陽のまぶしさが綺麗だった。完全にそうというわけではないけれどところどころ木々が紅葉していて、秋らしさも目で捉えられる。その様が圧巻で、虹彩に染み込むかんじで、思わず「わ~!!」と言いながら道、道というか岩の上をゆく。
ふもとから昇って一時間ほどするとようやく山頂に到着した。山頂には既に数人居て、けして広々とした場所というわけではなかったのだけれども、この、得も言われぬ達成感……! そりゃ登山は楽しいわけだと思う。山登りの一歩は絶対無駄にならないし、着々と積み重なっていく。山頂というゴールにいたるための、着実な一歩は自分の背中をまぎれもなく後押ししてくれるものだ。山頂からの景色を眺めて、自分がこんなにも高い場所まで登ってこれたのだと思うと噛みしめるものがある。あと、個人的にはヒロアカの爆豪勝己が「登山好き」だったことを思い出して、あ~ っぽいな~と心の中で勝手にうなづいたりした。だって登山、おのれと向き合う時間でもあるし……。
山頂に着いてからは先輩が登山道具を使ってお湯を沸かしてくれて、みんなで温かい飲み物を飲んだり各自持ってきていたお菓子をそれぞれでつまんだりした。ただのお菓子やあたたかい飲み物も山頂到着後だととっても美味しい。山頂で読みかけの歌集を開いて読んだり、別のルートから昇ってきた人に「向こうに薄ら富士山が見えるよ~」と教えてもらってみんなで首を伸ばして富士山を探したり、山頂に居た見知らぬ方に写真の撮影をお願いしたりしながら、30分ほどのんびりとしていた。登ってきた人が入れ替わりでやってくるので、山頂はじっとしているだけでも楽しかった。
降りる時間を踏まえ、お昼に近づいてきたあたりで下山することにした。下山は上がってきた道とは別の道を歩くことになったのだが、登る時もそうだったように道の角度が急なので滑り落ちないよう気をつけて進んだ。ロープや木を掴んでひたすらくだる。登りよりも足に力を入れるのでふくらはぎや太ももが痛くなる。それでも下りは、登る時よりみんなの会話が多かった。小学校のころ流行った遊びや、何故どこの学校でも足の速い生徒がモテたのか、今のディズニーシーが如何にアプリを駆使しなければいけないのか等、無限に雑談していた。
下山してからは、軍鶏の親子丼を食べに行った。暫く並んで入店し、輝く親子丼を食す。山を登った後の軍鶏丼はとてもおいしかった。やわらかいのにこりこりとしていて、弾力が確りとしている上にお肉の味そのものが濃かった。
昼食後は近くにあった、日本三名瀑のひとつに数えられる「袋田の滝」を見に歩いた。古き良き温泉街のような場所を進んで入場料を払うと、やけに虹色に輝くゲーミングトンネルの中に案内される。登山後で疲れているのもあって、道が整えられているのはありがたい。そのトンネルの果てに、滝があった。
袋田の滝は高さ120m・幅73mの大きさがある大きな滝である。 盛り上がった岩が四つあり、そこを流れ落ちてゆくことから、別名「四度(よど)の滝」とも呼ばれるのだそうだ。ありふれた感想になるけれども、滝を前にすると落ちてくる水の流れをずっと見ていられるな、としみじみ思った。1500万年前に地面から出てきた岩をくだりゆく水の流れは形を変えて下の川と合流してゆく。その様は飽きずに見ていられた。
その後は滝を上から見たり下から見上げたりして、先輩にまた運転してもらいながら途中道の駅に寄ったりもしつつ夜に帰宅した。とても疲れていたのは勿論そうなのだけれどなんだか気持ちのいい疲労でとにかくよく眠れた。
とはいえ翌日から4日間足の筋肉痛で苦しんだ。とにかくベッドにいた。これが老い………………………………………………。
山に登ったことで2024年にやりたいことリストがまた一つ達成できた。あと一ヶ月と少しでどれくらい埋められるだろう、と指折り数える。2024年から始めた日記ももうラストスパートだ。走りきりたい。