監督 ルカ・グァダニーノ
Amazonプライムで字幕版を視聴。130分。
あらすじ:1983年夏、北イタリアの美しい避暑地。両親と共に夏休みを過ごしていた17歳の少年は、そこでアメリカから来た自由奔放な24歳の青年と出会う。やがて、激しい恋に落ちる2人。少年にとって、それは初めて知る恋だった。
冬なので夏の映画を観ることにした。寒い毎日に飽き飽きしていたので、焦がれる暑さを味わいたくて前々から気になっていたこの映画を選んだ。そしてエンディングを眺めながらうなづく。なるほどティモシー・シャラメは魔性の青年を演じる才能がある……。
摘みたてのアプリコット、短パンとサンダル、ロードバイク、北イタリアの鮮やかな景色、庭での食事、ボーダーのタンクトップ、褪せた色のシャツとサングラス、少し古いカセットテープ、手書きの譜面、ピアノ……と、とにかく掛け合わせたら最強になる狡いものを詰め込みすぎだろ、と思わされた映画だった。もはや悔しくなるくらいだ。然しどこまで盛るんだよ……。と感じさせるのにくどくないどころか鑑賞後は爽やかな切なさに再びこの映画が恋しくなるので素晴らしい。映画を観るたびに言っているけれども、とにかくこの作品に関しても計算され尽くされた画面のうつくしさに目を奪われるばかりだった。兎にも角にも目が楽しい。イタリアにも行きたくなる。小道具のデザインや家具の配置なども勿論、エリオやオリヴァーといったキャラクターの顔の角度や前髪のみだれからさえねらった意図を感じられて、なんというか、映画を見たというより絵画を眺めたような感覚に近い。ずっと見ていられるな、とぼんやり見惚れていられる映画だ。自慰の道具に果物を使うシーンなんて、こんな綺麗な自慰があるのかこの世に……。と感心までしてしまった(?) 作り手の拘りが見てとれる映画はちゃんと心に響く。
こういった映画に対してはまだまだ映画感想記録初心者として曖昧な感想しか言えないけれども、終始オリヴァーとエリオのやりとりが生々しくて良かった。(生々しいというのは、二人ともお互い以外に異性の相手がいて、極めて不誠実であるにも関わらずひと夏の期間に委ねてしまう恋をしてしまうあたりも含めて) 洋画のやりとりだなあとメモしたくなるセリフもあればストレートな表現もあり、ふっと口をゆるめたくなる。鼻血を出したエリオの足を部屋の隅でマッサージするオリヴァー、自慰に使った果実を食べられるから見ていてと話すオリヴァーに突っかかるエリオ、野原で境界線をさぐりあうふたり……限られた時間の区画でしか混ざり合えないからこそこの二人からあふれる愛は言葉を交わした回数よりも交わした目線に込められたものから察するものがあった。不誠実で秘密で限定的で、やがてたどり着く場所がわかっていてもそれでも恋とはいいものだ、とどのシーンからでも思わされる。痛々しい様がいっとう綺麗だった。
そして夏に恋をして冬に恋が割れるくだり、狙ってやるにしても完璧がすぎて参ってしまった。冬のシーンが訪れた時点で察するに余りあるこの展開……! 暖炉の前で涙を流すエリオの表情といったら! エンドロールを見つつ、エリオの父と母に理解があり、そして彼彼女らが息子に優しくて本当に良かった、と思う。その点での悲劇を入れなかったのはエンタメとして最大の配慮だろう。そのようなストレスがあっては、この映画は曇る。画面越しに味わうしめりけとささやかな衣擦れが耳と目に残る、ぼうとした休日に流していたい映画だった。