『異人たち』
監督 アンドリュー・ヘイ
TジョイPRINCE品川にて字幕版を視聴。105分。
あらすじ:ロンドンのタワーマンションに暮らす40代の独身男性アダム。12歳の時に交通事故で両親を亡くして以来、孤独な人生を送っていた。脚本家の彼は現在、両親との思い出を基にした脚本を執筆していた。そのために両親と幼少期を過ごした郊外の家を訪ねた彼は、30年前に他界した当時と変わらぬ姿の父と母と再会する。
そろそろ映画館で映画を観たいなと思い、SNSで評判の良かったこの映画を観ることにした。あらすじも主演が誰なのかもわからず、ただ、なんとなく良い映画なんだろうな~という思いで席に着いた。
感想を短く表すのなら、こんなにも果てしなく人間が抱える「さみしさ」と「孤独」と「喪失」について描かれてしまったら、自分の将来を想像して落ち込むな……。でも、その向き合い方とどうしようもない現実の様を優しく丁寧に教えてくれる映画だったな……。である。とにかくさみしい。さみしいけれども、儚くうつくしい。目覚める前に見る夢のような映画だった。
ゲイである主人公のアダムと、アダムの前に現れる同じマンションの住人・ハリーがお互いに抱えるつめたい孤独、それもゲイであるがゆえに避けられなかった孤独について、ささやきあいながらひとつのベッドで共有するシーンがとても印象的だった。孤独を埋められなくても、孤独を分かち合えることはできるし、共感してもらうことや知ってもらうこと、それだけで和らぐさみしさだってある。そうして生きていけたなら、まだ、ずっとよくひとりで居られる。
アダムの両親とのエピソードは、ハリーとのシーンで得られる愛とはまた別種の、それでいて諦念や差別意識の揺蕩うものであったけれども、おさない息子を残して死んでしまった両親の最後に残した「愛してる」があまりにもあたたかくて涙ぐんでしまった。むかしにゲイの教師を揶揄っていたと告白した父、ゲイへの認識がやや古めかしくも息子を案ずる母、アダムはまぼろしの両親に抱きしめられ、縋り、最後には夕陽に溶けゆく二人を見送る。夢と現実の間を行き来する展開にはすこし困惑させられたものの、あの世界そのものがそういうさかい目の薄い場所なのだと思えば寧ろ、あの演出は洒落ていてより、ゲイであるがゆえの彼らの孤独をとてもリアルに、けれど仰々しさはなくただ淡々と浮き彫りに魅せてくれてよかった。最後、ハリーの死体を後にハリーの背を抱き宥めるアダムとしずかに眠りにつくハリーのふたりがだんだんと遠のき星になるあの終わり方、幾億千万もいるわたしたち人間それ自体がどうしようもなく孤独である、と示すような演出があまりにも良く………………映像作品ずるすぎる……! になってしまった。あんなの、小説じゃ絶対できない。観終えたあとの時間が夜だったせいか、よりいっそうさみしい思いになりながら帰った。考えさせられる。この先の人生をどう歩んでゆくべきで、どう歩んだとしたって、避けられない喪失と孤独と向き合わなきゃいけなくて、そうなったとき、自分はどう付き合うのだろう。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
監督 グレタ・ガーウィグ
Amazonプライムで吹き替え版を視聴。135分。
あらすじ:19世紀、アメリカに暮らす個性あふれる4人姉妹。小説家を目指す次女は、執筆に励む日々を過ごしていた。姉と参加したパーティーで気の合う男性と出会ったが、やがて彼のプロポーズを断る。4人は、自分たちの信じる形で幸せを追い求めていく。
わたしは一人っ子なので、映画を観ながら「いいなあ」と思うばかりだった。こんなにもたくさん、仲の良い姉妹が居るというのはきっと楽しいだろう。
そりゃあ喧嘩だってするだろうし、こいつのことを絶対に許さないと歯を食いしばってその歯を砕きかねないような激情に駆られる時もあるだろうし、わたしは兄弟姉妹の存在に夢を見ている自覚だってある。そんなにいいもんじゃない、という友人からの話だって何度も聞いている。それでも尚思う。兄弟姉妹という存在がものすごく、いいなあ、と思う。親とはまた違う、親よりも近くて唯一無二で、不思議なたましいだ。
それはそれとして、序盤のジョーの小説が編集者に読まれながら「このページは蛇足」とでも言わんばかりに線を引かれたり物語の話の流れをああしろこうしろと言われるシーンは、その……下手くそながら何かしらの話をちまちまと書いている人間として……心に結構来るものがあった。そんッな風に目の前で鼻で嗤われたり頑張って書いた文章の上に線なんか入れられたら心がめちゃくちゃになる……! と思いながら観ていた。それでも、画面の向こうで勝手にキーッとなるわたしを他所にジョーは自分の作品が雑誌に載ることがわかるとスキップをするし嬉しそうにする。それもそうだ、作中の彼女は困窮している。自分のプライドなんて天秤にかけていられないくらいに。
このへんは、同じく物書きを主人公に据えている「アメリカン・フィクション」と重なったり、はたまた、ずれている部分を見つけられて面白い。需要に相応しい作品を書いた方が売れるのは確かで、でも自分が本当に書きたいものは世間の求めているものと違っていて、ただ、作品を書き続けなければ金は稼げない、この、どうしたってずれる釣り合いをどのようにして取るのか、という……。
姉妹のやり取りは全編を通してすごく魅力的だった。姉妹はみんなかわいいし、それぞれ性格や得意なことが異なっていていい。そして、そこに交わるティモシー・シャラメ演じるローリー(吹き替え版声優:入野自由)の良さ! 劇薬みたいな男だ。
17世紀が舞台の作品なので、この映画に出てくる女性たちの多くは女性であるがゆえの窮屈さとままならなさを感じて生きている。結局、金を稼げない、自分の財産を持っていられない女は男と結婚するしかない。好きな人と結婚するよりも金持ちと結婚する方がずっと賢いし幸福だ。得意なことを貫き続けられずに、夫に献身する妻に徹する。そうして生きてゆく未来以外ないと口をそろえる。
自ら望んで妻になりたいと話す次女のメグが結婚するときの、ジョーが彼女にすがりつく姿には共感した。素晴らしい演技力があるのに、その惜しい才能が消えてゆくこの絶望感! ティツィアーノ・スカルパの「スターバト・マーテル」のチェチリアとアントニオ神父のことを思い出す。才能に人生を捧げられる人間と、幸福を優先する人間のあいだには理解し合えない断絶がある。この作品は、才能と愛情をくらべてどちらかを捨てて生きる道を選ぶおんなの話でもあるのだ。
また、ひとりで生きていきたいのにどうしたってさみしい、と話すジョーがローリーの告白をもう一度受けたなら了承したい、と話すシーンで、嗚呼、人生……とうなだれてしまった。ジョーがそう思った時点でもう、ローリーはジョーの妹・エイミーと婚約している。こういう、取り返せない幸福ばっかりが、人生でいっとうまばゆく見えるのだ。そっちの方がただしかったんじゃないかと思ってしまう。憎たらしいことに! 正解なんてないのに、自分の信じたことを成したいのに、後悔が伴う。この、既視感のある喪失がたまらない。
全編を通して、会話がここちよく、時折挟まるほろ苦さがとてもわたし好みな作品だった。ジョーが物書きであったからか、観終えた後はなんだか小説を書きたくなった。自分の人生を小説に書き表すなら、初めの一文はどうしよう、と考える。
『アイデア・オブ・ユー ~大人の愛が叶うまで~』
監督 マイケル・ショウォルター
Amazonプライムで吹き替え版を視聴。115分。
あらすじ:40 歳のシングルマザーであるソレーヌは、10 代の娘の付き添いで米野外音楽フェス「コーチェラ・フェスティバル」へ行くことに。そこで、地球上でもっともホットなボーイズ・バンド「オーガスト・ムーン」でリードボーカルを務める 24 歳のヘイズ・キャンベルと運命の出会いをはたす。一気に燃え上がる 2 人であったが、順風満帆な日は長くは続かない。スーパースターとして常にスポットライトを浴びるヘインズとの交際は、ソレーヌにとっては予想以上に厳しいものであった。はたして 2 人の恋の行方は…?
アンハサウェイ、その魅力が衰えることを知らないな……と眺めていた。ほんとにずっと眺めていても全然飽きない。このひとは本当にすごい。ただ美人というだけでなく、表情がいちいち癖になる。あとずっと、顔ちっっっっさ……と思っていた。ブルピンのLISAと並んだツーショットをインスタで見たことがあるけれども、LISAと並んでなお更にアンハサウェイの方が顔が小さくて驚愕した記憶がある。その上手足は長すぎるので、なんというか、全身のレントゲン写真が見たいな、と思わされた。
はっきり言ってしまうと、奇抜な展開がある恋愛映画ではなかった。愛って結局相手を愛してるだけじゃうまくいかなくて、それだけじゃいけないんですよね、難しいことに! 歳を重ねた女性と、若いインフルエンサーの男性の恋愛、として安易に想像できる流れは大体追うような映画だ。歳の差によって生まれる葛藤、SNSでの炎上、家に張り込むパパラッチ……。
ただ、奇抜な展開がないからと言ってけして面白くないわけじゃない。この映画は、ありふれた展開をなぞるにあたっても魅せ方がうまい。面白い映画だったな、とおもえたのは主役二人の会話がとてもテンポよく繰り返されたり映画ならではの工夫やおしゃれな演出が映像内にセンス良く散りばめられていたからだろう、と思う。例えば、キスしている最中ピアノの鍵盤に手をついてしまってじゃらんと音が鳴るやつとか、絶対みんな大好きだし……。あとアンハサウェイの着ている服が全部よかった。おしゃれだしかわいい。
うわ~小説書くときに参考にしたい、と思わされるシーンだっていくつかあった。映画に限らないけれども、わたしもこういうのが書きたいな、と創作意欲を刺激されるシーンを目にできると、それだけで映画を観ている時間や小説を読んだりする時間にはじゅうぶんな価値が生まれる気がする。黙々と作業するときに流していたい映画の内のひとつにリスト入りした映画だった。