2024年映画鑑賞録 14『シェイプ・オブ・ウォーター』

a_waltz_at3pm
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監督 ギルレモ・デル・トロ

Amazonプライムにて視聴。123分。

あらすじ:1962年、アメリカ。口の利けない孤独な女性が、政府の極秘研究所で掃除婦として働いていた。ある日彼女は、研究所の水槽に閉じ込められていた不思議な生きものと出会う。たちまち「彼」に心奪われ、人目を忍んで通うようになる。

正直な話をすると、観ていてストレスのある映画だった。良い映画であったようには思う。ただ、わたしが昔よりずっと、あきらかな悪役への耐性が落ちたのだ。意地悪で酷い人間を見ていると苦しくなる。こういう人間もいるよな、だとか、こういう立ち回りをする人間が話の都合上必要だよな、とわかっていても辛くなってくる。報いを受けて死ぬことになろうとも、すっきりしたりもしない。どれだけの悪役であろうと死は死で悲しいものだ。(今回は特に、相手には家族もいたので……。)悪役に魅力を感じる余裕が無いとそうなるだけなのかもしれない……。

うつくしいというよりずっと、ひたすらに生々しい映画だった。セックスも言葉を無くしての愛の伝え合いも、その何もかもが生々しい。イザベラと彼の恋愛と、そうでないおおよそ一般的とされる恋愛の対比は意図して前者がよりうつくしく映るよう映像で表現されている。水の中での髪の揺らぎ、色の違う肌の重なり、嬌声も息遣いもないそれが、冷ややかでうつくしい。

あと、こんなにわかりやすい映画なんだな……。と意外にも思った。シェイプ・オブ・ウォーターは敷かれる伏線も話の展開も、とても理解がしやすい。悪役、友人、キーマン、語り部など登場人物の役割もはっきりしている。このような映画にしては珍しいようにも思った。こうしたテーマにおいて、おぼろげに、曖昧に、さりげなくストーリーの進みを伝えてくる映画は少なくない。その点においてシェイプ・オブ・ウォーターは優秀だった。ストーリーと起承転結が極めてわかりやすくシンプルであるおかげで、彼とイザベラのゆく末や仄かにさみしい世界観をぼうと眺めていられたからだ。集中できたとも言える。ただ、彼彼女らの隔たりを示すために・こうした終わりを迎えるのなら確かに起承転結はこういう形にせざるを得ないのだろうけれども、もう少し穏やかに眺めていたかった気持ちもある。二人の関係に、しんと沈んでいたかった。心を荒立てず視聴したかった。惜しさを感じてしまうのはやはり外野からの悪意だ。悪役へのストレスを強く感じる方にはあまりお勧めできない映画だと思う。

世界観はとても優秀だった。ずるいと言いたいくらいだ。優秀という表現が適切である気がしないけれども、いいなあ、とうなづきたくなった。研究施設でのバイト、話せない女性、未知の生物、手話で心を通わせる……というそれらの要素ぜんぶが、物語をやさしくいびつに形作っている。こういうのが俗に、アイデアの優勝と言うか、発想の勝利というやつなのだろうなと思う。素敵×素敵は最高なのだ。こういう話を考える力が欲しいと悔しい思いも少しした。薄暗い画面と淑やかな演出に、雨の感触と温度が自然と思い出される。

海の果てまでふたりで生きていったのだろうか。わたしは映画で描かれた以降の結末を想像した。脳みそが圧倒的なメリバ厨なので、結局海の環境に耐えられずイザベラがつめたく海底に沈む様くらいしか思いつかないのだが、水中で言葉がなくても交わせる愛に生きていてくれたならきっとその方がいい。ゆで卵じゃなくたって、海にも卵はある。

@a_waltz_at3pm
自我の置き場(1週間日記・本と映画感想記録)