THE GUILTY/ギルティ
監督 グスタフ・モーラー
Amazonプライムで吹替版を視聴。85分。
あらすじ: 捜査中のトラブルにより現場を外された警察官。緊急通報指令室のオペレーター勤務になった彼は、元の職場への復帰を目前にしていた。そんなある日、誘拐された女性から通報を受けた彼は、電話から聞こえる声と音だけを手がかりに、彼女の救出に全力を尽くす。
いいトリックの効いた面白い映画だった。なるほどこれは……。映像作品でやるからこその面白さがある作品で、観ながら思わず膝を打った。単純に話の構成が上手い!
最近、考察が前提だったりやや曖昧ぎみに描かれる映画をよく観ていたこともあって、ストーリー自体がわかりやすくとてもシンプルな構成であるのがより楽しめた作品でもあった。電話口からでしか情報を得られない中で奔走する緊急通報ダイヤルオペレータの主人公と、観客であるわたしたちはまったく同じだけの情報量しか得られない上に、想像と推察のみで攫われたと訴える女性の状況を頭の中で補い考えてゆくほかない。そのように、観客ともどもこの事件を追うオペレータになれる構図がとてもいい。そういった仕組みにしているからこそ、ミスリードを誘導する話のつくりや順に並べられゆく真実、だんだんと明かされる展開に唾をのむことになる。
ところで以前に、わたしはこの「ギルティ」と似た構成で作られたショート映画の「オペレータ」という作品を観たことがあった。(SAMANSAというアプリで配信されている。)これは火災コールセンターの女性オペレータが、火事が起きたと話す女性を助けるため電話でさまざまなことを指示していく10分未満の映画だ。どうしようと慌てふためき冷静でいられない相手に、落ち着いて、窓を開けて、などと常に声をかけ続けながらわかりやすくやるべきことを女性オペレータは伝えていく。何度も何度も励まし、大丈夫、助かるから、と言って、電話先の女性が倒れてしまわないよう尽力する。やがて消防車の音が電話の向こうから聞こえてきたら電話を切り、ほっと息を吐く──そしてまた、電話が鳴る。休む間なく、また、危機に瀕している誰かを助けるため声をかけ続け指示を出す女性オペレータの緊迫感と緊張感を見せられる映画なのだが、「ギルティ」「オペレータ」同様に、緊急通報ダイヤルの対応をしている人の姿を見ると、社会人として働いているがゆえに、こんな仕事してるのすごすぎる……とその点で尊敬してしまうものだった。人の命を預かる仕事をしている人は本当の本当にすごい。自分の発言ひとつで電話の向こうの相手が死んでしまうかもしれない、見えない場所に居る声だけしかわからない相手を救うためにもミスはひとつも許されないなんて、すさまじい仕事だ。敬服せずにはいられない。わたしなら1回の電話ごとに訪れる緊張で胃に穴が空きそうだ……と思う。
ギルティは、緊急通報ダイヤルに電話をしてきた「誘拐されていると思われる女性を電話でのやり取りのみで助ける」という目的に連なって、その誘拐事件の全容を別々の語り手から断片的に知りつつ、目で見えないからこそのトリックの仕組みに驚かされながら真相が明らかになっていくさまが面白い。緊迫した状況でおこなわれるやり取りであるがゆえに、ひとつの違和感に気づいた瞬間取り返しのつかないミスをしてしまったかもしれない、と血の気が引くおそろしさ……! 現場に到着した警官からの「女の子の体は血で真っ赤だ」「生きてるはずがない! 腹を裂かれてるんだぞ!」、攫われているイーベンの「お腹にいたへびを裂いてあげたの。そしたら泣き止んだ。もう大丈夫でしょ?」など、人々の発言から点と点がつながってすべてに察しがついたときの、なんてこと……という絶望感といったら! また、主人公が何故緊急通報ダイヤルオペレータをやっているのか、元は警官だった彼の「ギルティ」はなんなのか……そのあたりも絡めて人間ドラマに仕立て上げていく様がストレートでよかった。複雑すぎず、あまり考えなくてもしっかり楽しめる。電話音声だけで進みゆく展開にも面白いな~と唸った。85分でこの面白さなら大満足だ。
以下、SAMANSAで見たショート映画の感想(今までもSAMANSAでは映画を観ていたけど、今回からちゃんと記録することにした)
クロコダイル 5分9秒
長らく連絡を取っていないゲーム配信者の息子の配信を見てさりげなく連絡を取る母親の話。この作品では自然といい雰囲気になっていい結末を迎えていたけれども、配信中に親からのものと思しきコメントが突然流れてきたら震えるだろ、普通……。と思った。それはそれとしてほっこりする話ではあった。
Loco 7分50秒
自分の運転する電車で自殺者を轢いてしまった高齢の車掌の話。電車は急に止まれないからこそ、そのままならなさが胸に来る。踏切に入っている人が見えてからの祈るような声、そして怒号へと変わる声の変化に痛々しさを憶えた。事故が起きてからは、電車のブレーキ音や走行音を思い出しては藻掻き苦しむ主人公の様にひどく感情が引きずられた。罪に問われなくとも人を轢いてしまったことはトラウマになるし、その事実や景色は精神を侵すに決まっている。イギリスは年に200件ほど人身事故があり日本より100件ほど少ないものの、自己の頻度としてはほとんど毎日起きていることに変わりない。この作品を見て、イギリス政府が業務中の身体的・精神的被害に対する被害補助制度において電車の車掌をその制度から外したというのが信じられなかった。どれだけ日常的に起きる悲劇であっても、そこを怠ったらだめだろ……! 同じ苦しみで苛まれる彼彼女らが、すこしでも救われることを望む。
ザ・レターメン 8分41秒
第二次世界大戦下において、ゲイ同士で手紙を交わしていた二人の物語。とある兵士の元にやってくる手紙は同性の恋人からの愛がひたすらに記されていた、……という話なのだが、2015年に実際に発見された手紙と実話をもとにしたストーリーが良かったというのはもちろん、かつてのイギリスの法律に驚かされた。同性同士で愛し合っているだけで懲役を科されひどいときには死刑……? いくら時代が時代とはいえめちゃくちゃすぎる。撤廃されて本当によかった。
手紙にある文はひとつひとつが詩的で愛にあふれている。この世界に存在してくれる君がどれだけ特別愛おしいかと、死刑にされるかもしれなくても、臆さず相手への愛を綴っているところが尊く美しい。戦禍で読むにはあまりにやわらかいそれを、中身が露見するのを恐れて燃やそうとするところで流れる涙のなんとうつくしいことか……。「この手紙がもっと自由な未来で読まれていたら嬉しい」の一文に、50年が経過した今でもままならないことはたくさんあるけれどもそれでも、愛おしい相手からもらった手紙はもう燃やさなくてもいいはず、とゆるやかに観終えた。ふたりの手紙が今後も燃やされず、大切に保管されることを祈る。
エッグ・カレー 5分4秒
あ~~~日常ってほんとにままならないしクソッタレなことばっかり起きて気分は最悪、毎日毎日憂鬱なこともあって厄介な人間は切り刻んでスープに入れたいし嫌なことはまとめていためてやりたいよな、わかる、でもすこしでも気持ちが楽になったり笑顔になれることがあったらそれだけでもうすこしだけがんばろうかなと思えることもある、人生って大体そんな感じだ~~! という感想を抱けるアニメーションだった。頑張って生きていこう、明日も。