2024年映画鑑賞録 10『ボヘミアン・ラプソディ』

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監督 ブライアン・シンガー、 デクスター・フレッチャー

Amazon プライムで字幕版を視聴。134分。

あらすじ:1970年代。ロンドンのライブハウスに通っていたフレディ・マーキュリーは、3人の仲間らと共にバンドを結成し、アルバムを制作する。メンバーの個性や挑戦的な試みによって彼らは一世を風靡するが、フレディは次第に孤立していく。

QUEENというと、We Will rock youのイメージが強い。それには理由があって、まずひとつにとても有名だからというのもあるけれども、わたしが高校生のころの音楽の授業のテストで歌うため熱心に聴いて覚えたというのと、吹奏楽部の時にブラスバンド用に親友が編曲したものを吹いたことがあるからだ。然し、言ってしまえば嗚呼あの有名な……と、それくらいだった。フレディ・マーキュリーの名前は、なんとなく聞いたことがあるな、と思う程度の認識だった。

映画の感想としてはこれに尽きる。映画館で見ればよかった……! いや当時のわたしも絶対に映画館で観た方がいいんだろうなということはわかっていた。なんで行かなかったんだ。

QUEENのファンであったなら垂涎ものの映画だろう。QUEENのファンでないわたしですら、彼らの音楽が流れるシーンでは心を揺さぶられた。彼らが彼らの音楽を作り上げるシーンでは、自らの軸を確りと持って何かを作り上げてゆく姿にささやかな共感を覚えた。全体的なストーリーは、誰かが考えたのかと疑いたくなるくらいに王道な筋書きをたどる。然し、それが良い。バンドメンバーとフレディのある夜の出会い、パフォーマーとしての才能を開花させるフレディ、徐々に知名度と人気を獲得してゆく「QUEEN」──ゲイと自覚してからのパートナーとの破局、ドラッグ、パーティ、酒、バンドの休止、不治の病、そして、かつての仲間と復縁をして行われたあのラストライブ。フレディ・マーキュリーの人生はうつくしく鮮烈な起承転結で綴られる。その折々に生まれる音楽──彼の声、彼の声を際立たせる演奏──は、ただただ素晴らしいのひとことに尽きた。有名であるがゆえにどの曲もどこかで聴いたことがある。フレディ・マーキュリーの人生を識ってから聴くと、曲に対する印象はわずかにずれる。良い音楽は鼓膜という繊細な器官を通して、ひとの心をわしづかみふるわせてくれるものだよな、とフレディは命を賭して教えてくれる。

フレディは1991年の11月に45歳で亡くなっている。フレディの死因であるエイズとニューモシスチス肺炎について、すこし調べたりもした。

(知恵袋の回答を信じるか否か、といったところだが、知識としてとても参考になったのはこの記事だ。当事者の方であるからこそ、エイズとその治療方法の歴史についてわかりやすく回答されている。https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10247718265

1987年には世界で初の抗HIV薬が発売されたが、当時この薬の副作用はひどくフレディは薬を飲むのをやめたのだそうだ。HIV治療はフレディが亡くなった後の1992年に2剤併用療法が確立され、この治療は5年位ほどエイズの進行を遅らせることができたらしい。数年後には更なる療法が確立されてゆき、エイズはそれらの治療法によっておよそ平均寿命まで生きられる様な病になりつつあった。──回答者曰く、ニューモシスチス肺炎での死というのはほとんど窒息死に近いのだそうだ。今を生きているからこそ、この治療方法の確立までの経緯を知ってからだと、フレディの命があともうすこしだけ燃ゆっていたなら、と思わずにはいられない。彼の声を生で聴けなかった時代に生まれたことが悔やまれる。彼のきざむ伝説をこの目と耳で味わってみたかった。

ラストライブの映像をYouTubeで見た。この時、すでにフレディはエイズに感染している。血を吐き、思うように声が出ない苦難にも立たされたというのに、そのうえでこのパフォーマンス力は天才的だ。「QUEEN」の音楽よ、フレディ・マーキュリーの歌声よ、永遠なれ。録音された彼の声を聴いた未来の人間全員に、生で聞きたかったと永劫後悔させてほしい。

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自我の置き場(1週間日記・本と映画感想記録)