監督 満仲勧
映画館で視聴。95分。
あらすじ:春の高校バレー宮城県代表決定戦、春高初戦と、強敵を次々と倒す中で進化を遂げた烏野高校は、春高 2 回戦で優勝候補・稲荷崎高校を下す。そして、遂に 3 回戦で、因縁のライバル校・音駒高校と対戦することとなる。幾度となく練習試合を重ねても、公式の舞台で兵刃を交えることが一度もなかった両雄。烏野高校対音駒高校の通称“ゴミ捨て場の決戦”。約束の地で、「もう一回」が無い戦いがいよいよ始まる。
わたしが初めてアニメのハイキューを見たのは、学生の頃の話だ。日曜の夕方に放送される一話を、テレビの前で楽しみに待っていた。原作が大好きで、当然アニメも楽しみにしていた。主題歌がSPYAIRと知って、なんて最高なんだと待ちわびていた。──映画が始まる直前、劇場の席に座りながらそんな過去を追想していた。まさか、ゴミ捨て場の決戦を映画館で観られるとは、あのころの自分は思わなかった。
烏野VS音駒戦は本誌で連載されていた時期に読んでいたので、おおまかな流れは把握したうえでの視聴だった。この試合における狐爪研磨とかいう……この……とんでもない男……! 策士っぷりが格好良くてとにかく震えたものだ。この試合の中での研磨の心境は試合時間が過ぎるにつれみるみる色を変えてゆく。初登場時、バレーに対して「別に普通」と話していた彼がコートに伏し、汗だくで「たーのしー」を言うシーンは当時本誌を読んでいても思わず涙ぐんだ台詞だった。わたしで涙ぐむのだから、幼馴染の黒尾はそりゃあ……。と感情移入してしまったくらいだ。ハイキューはとにかく、こういった“人間の変化”を描くのが丁寧で何より、自然だ。時間と話数をかけて細やかな描写で徐々に徐々に積み上げて、印象的に締めてくれる。読者の目がしらを熱くして、嗚呼、このキャラクターたちがこんなにもいとおしい、と心から思わせてくれる。そして、どのキャラクターにも同様のドラマがあるのだ。バレー自体が「繋ぐ」スポーツであるからか、ハイキューにおいては人間と人間の繋がり、それもバレーをからめた繋がりがとてもとても大切に描かれていて、その加減が絶妙でわたしは好きだった。エピソードの濃度には差があれど、ここまで、おざなりに描かれているキャラクターがひとりもいない漫画はそうそうない。ハイキューに出てくる彼彼女らは誰も彼にも、ちゃんとした人生が在るのだ。
いつだったか古舘先生のインタビューを読んだときに、印象に残っているお言葉がある。曰く、ハイキューはバレーにかかわる話以外を意図して割いて描いていると先生はおっしゃられていた。(記憶が曖昧なので、ニュアンスはもうすこし違うかもしれない。)ノイズになるから、と。然し、それを知ってからハイキューを読むと、ゆえにこそあんなにもバレーに真摯で、まっすぐな、澄んだ漫画が出来上がったのだろうと納得させられた。人は死なない。魔法も勇者もいない。決められたコートの内側でみんな走り回って、ボールを追いかけて必死になる。たったそれだけのバレーが、こんなにも感動的で面白い。
作画はさすが映画で公開しただけはあるな、という感じだった。みんな顔がちゃんと整っていて、バレーの試合らしいスピード感もある。(都度都度、スタッフからは研磨への愛を感じた。)旭さんのスパイクのえげつなさ、音駒のレシーブの粘り強さ、山口のサーブ、日向と影山の速攻、月島と黒尾のブロックのくだり……。(特に、わたしは白鳥沢戦を経た月島の変化に一番涙腺をやられるので、したり顔でブロックをする彼を見るたびに泣きそうになる。)これだよこれ! と言いたくなる。普段見ているアニメを、劇場作画で見るのがなにより楽しいのだ……。
「おもしろいままでいてね」のシーンにも敢えてちゃんと言及する。感想としては、急に無音にするな! 怖いだろ……! という感じだった。観客に、あのときの日向と同様のおそれを抱かせようと奮闘したスタッフの努力はすさまじい。ちゃんと怖かった。研磨が放つ底知れぬおそろしさがちゃんと表現されていてよいシーンだった。あれは、アニメ放送を家で見たりしているだけじゃ絶対に味わえない。観客全員が唾をのむ緊張感が在って、やっと完成するシーンだった。
今までのハイキューらしさはちゃんと残しつつ、映画ならではの描写もあった。それが、ラストシーンにおける研磨の一人称視点だ。視点が揺れ、天井をゆくボールをふらふらと追いかけ、コートを走り、ラリーを何回も何回も続ける。相手のサーブを捉え、自分たちのコートに落ちる前に拾い、なんとか返し、その応酬に夢中になる。……最後には汗で手をすべらせボールを取りこぼしてしまう。あっ。といつの間にか、試合が終わってしまう。ゴミ捨て場の決戦はこの終わり方がいいんだよな……。としみじみ思わされた。
そしてエンドロール後の描写に期待してしまう。烏野VS鴎台、まさかこれも映画館で観られるんですか……!? いいんですか!?