京極堂が好きなので新刊の『鵼の碑』を買ったら舞台が日光だった。そして、山中こそ聖地という話であった。
宇都宮の人間なので日光は身近な上、祖父は登山ガチ勢であった。なんか地元の出版で、登山指南本とか出してた。その上年齢は京極堂たちと同世代。昭和29年に日光の山登っててもおかしくなかった。
日光の山に関する面白い話が読めるかもしれないと、京極堂のファン活動の一環として祖父の本を探すことにした。Amazonに1冊だけ中古で流れていて、難なく手にすることができた。
祖父は長年高校教師として勤めた。その本もまた、高校生岳人へ送るとして書かれたものだった。読んですぐ、昭和29年どころか1947年に上州武尊に登った記述があった。
はやすぎ。
戦後2年しか経ってない、昭和22年である。京極堂どころかゴジラ-0.1の時代線だった。まだ空襲の跡冷めやらぬ時期ではないのか。
そんな山中で祖父は、トラツグミの悲壮な鳴き声を夕闇に聞いたという。女が啜り泣くような不気味な声は、平家物語では『鵺』の鳴き声といわれ、今でもトラツグミのことを鵺と呼ぶ人もいるという。
本当に、女が啜り泣くような声がするのか。
わたしは祖父が鵺を綴った文を読むと言う、時を超え、祖父の死さえも越えて彼の言葉を読むと言う、本の魔力に圧倒された。
そして、観念した。
山、登るかぁ。