何某日記:通いの町中華

achamoth
·

寒くなったらこの店の、タンメンを食べると決めている町中華がある。

餃子が有名なこの町でクソデカ餃子を出すその店は行列の出来る人気店。車がないと行きづらいのに飯時はいつだって混んでいた。

ラーメン一杯1000円するこの時代にタンメンが650円である。普通の中華そばはもっと安く食べられる。素朴な、昔ながらの町中華は家族経営だった。

大将であろう爺さんが中華鍋をふるい、その奥さんであろう婆が餃子を延々と包んでいる。その息子であろう男性が爺のサポートをしていた。そこにバイトであろう女の子が注文取りや提供に動く。

大将の作るタンメンは野菜と豚肉の出汁が出たサイコーに美味いもので、どんなに寒い冬でもこれを食べると憂鬱が吹き飛んだ。豪華な材料は何もなくとも、素朴な出汁でこんなに美味しい。なら某もきっと美味しくなれるだろうと気合いが入るのだった。

爺の姿が見えなくなったのは1年ほど前のことだった。中華鍋をふるう人数が減って、提供スピードが格段に落ちた。時折、爺を見ることもあったが調理場での立場が変わっているように見えた。

某も転職のあれこれで店がある方角に行くことはとんとなくなって、それから1年、季節が巡って猛暑がすぎ、また冬の兆しが見えた頃、新しい職場にも慣れた某は休日、久しぶりにタンメンを食べに行った。

相変わらず爺はいなかった。外には『人数不足のため昼のメニューは餃子セットのみにしております』という張り紙があった。

日が暮れた夕方、店に入りタンメンと餃子、タンギョウを頼んだ。中華鍋を振るのは男性、たぶん息子だ。待っているうちに満席になり、相変わらずの人気店だと舌を巻いた。

タンギョウが出された。その味は、無類。

記憶の中のタンメンの10倍美味かった……

爺の姿は見えなくなってしまったが、味は継承されたのだ……今年はもうちょっと多く通おうと思った。17時台に行こ。