爺さんが居る。親族皆に疎まれている強欲爺である。顔は大滝秀治に似ている。
兵隊さんの言うことには、使えなくなった者は地下水道を通して地下室に連れて行くように言われた。親族の誰もが、爺を連れて行くように思っていた。しかし最後には本人の承諾がなければいけない。
長い無言の圧力の中、ついに爺は行く、行くよ……と言った。女中のわたしが連れて行くことになった。
地下水道は大きな排水溝みたいで、一度潜って吸い込まれなければいけなかった。親戚は皆、爺を排水溝に突き落とせばそれで良いと言っていた。その先はどうなっているか知れない。兵隊さんが言うには生きて下に辿れるらしいがとてもそうは思えない。
回転して水は落ち、その奥にも層が連なっている。溺れる前に身体が引きちぎれると思う。
でも、わたしは女中だし、あの家のことや兵隊さんとの関係も知れないし、分からないし、わたしは悪くないし…………
「大丈夫、行けるはずだ」
と立ち上がった爺は親父の姿をしていた。白いシャツと股引きで、ジャブジャブと水に入って行く。
待って
無理だ
死ぬぞ、パパ!
わたしはせめて一緒に行こうと思ったが、排水溝に流されて水流と共に層にごつん、ごつん、とぶつかって落ちて行く父は、ずぶ濡れで白髪がベッタリとして水に漂っていてまるで
起きた。