ガチ自炊して過ごす鉛温泉藤三旅館の夜

achamoth
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公開:2024/9/22

三連休と三連休の間の4日間にお盆休みの振り替えをぶち込んで10連休にした。そんなもん錬成したら、旅行に行くっきゃないっしょ!

ってことで東北、岩手県は遠野に来た。それは別で語るとして、2日目は花巻まで戻り鉛温泉、藤三旅館の湯治部に泊まった。

湯治。ああ湯治。

湯治にすごく憧れがある。温泉宿に長逗留して世間から離れ、創作にうちこむ。疲れたら湯を浴び、心身体の疲れを癒すのだ。窓の外は四季折々の自然だけが見え、醜い世間の争いは見えない。内面にだけ向き合いただ筆を執るのである。

そして自炊。自炊が出来る宿だなんてなんて面白いのだろう。飯でさえ自分が好きなタイミングで好きなものを作って食べればいいのである。なんて自由なのだろう。

かつて湯治が当たり前だった時代、文豪たちも温泉地に逗留し親睦を深めたそうである。泉鏡花と芥川龍之介の交流などは浪漫をくすぐる逸話である。

そんな湯治場も令和の今では姿を消し、全国で3%しか残っていないそうである。

この鉛温泉・藤三旅館の湯治部も良く言ってレトロ、ありていに言えば古く、歴史ある寮を思わせる廊下であった。昭和の時そのままを残す、それこそが湯治部の魅力からして施設の古さは受け入れるべしことなのだ。

三連休の合間とはいえ平日の夜、藤三旅館は人であふれて、快適な旅館部はもちろんのこと、レトロな湯治部もかなり埋まっているようだった。

すれ違う客が皆振り返る。わたしが手荷物として、ゴボウを持っているからだった!

ガタガタの扉を開けれてみればしかし、部屋の中は綺麗なこと!トイレや洗面台といった水回りは共同だけれど、ひとりでくつろぐには申し分ない清潔さと広さ。

なにより仲居さんの丁寧な案内よ。ロマンを感じて訪れはしたものの、不安も残る女ひとり湯治泊りに、細やかな気配りで安心感を得られた。

そしてわたしの持つゴボウを見て「自炊されます?」と声をかけ炊事場まで案内してくれた。包丁は危ないので備えづけられておらず、使うなら受付で借りる必要がある。

家庭科室を思わせる佇まいに、わたしの浪漫心も最高潮。仲居さんが去った後、ひとっ風呂浴びて、さっそく調理に入ることにした。

備え付けのまな板で材料を切り、備え付けの鍋に入れる。それは家庭科室を思い浮かべてくれればいいが、特徴的なのはこの10円ガスである。

謎の赤い箱に10円を入れてレバーを回すと、元栓が開き5分間だけガスが使えるという昭和から続くシステムだ。見るからに錆びた箱に恐る恐る10円を入れると、果たしてレバーは4分の1しか回らない。これでいいのかとコンロをひねってもつかないし、ガスが出ている様子もない。気合を入れて赤い箱のレバーをもう少し回すと、10円玉が内部に落ちる感覚がしてレバーがさらに周り、カチコチとタイマーが鳴り出した。

そして、我が家のIHコンロより立派な火力で炎がボオォーー!!

たった5分じゃ料理は出来ないだろうと思ったが思いの外火力が高いのでなんと間に合ってしまった。

この間、炊事場に来たのは電子レンジを使いに来た客1名ぐらいで、ガスに包丁。鍋を使ってガチ調理してるのはわたしだけであった。仲居さんも案内時に、本日炊事を考えてるのはお客様だけかもしれませんね、と言っていた。

こんな、楽しいのに……

そして出来たのは遠野の道の駅で買ったひっつみを使ったひっつみ汁である。遠野ホップのビールと共にいただきまーす!!

全部食べたらお腹いっぱい。お風呂は明日の朝にして、もう寝ようかな……

そして朝、本来混浴のところ設けられる女性専用時間を使って入った白猿の湯は素晴らしかった。

この湯の為にまた来ても良い……食べること、湯を編むこと、それだけに集中できた生きる旅であった。