映画『PERFECT DAYS』の作中で、主人公の平山が読んでいる本が3冊あって、その中ですぐに手に入った幸田文の『木』を読んでみた。(ちなみにパトリシア・ハイスミス『11の物語』はプレミア価格で取引されている)
タイトルは『木』、裏表紙の解説にも木々との交流の記と書いてあるので、植物に関するエッセイかなと思って見てみると、意外と(?)家族のことや人との交流に関する話が多くて、ふむふむ…と面白く読みました。その中でも、幸田文さんの娘に、植物に興味を持ってもらいたいがために、縁日で好きな植物を買い与える話のくだりがとっても興味深かったです。今まさに子育てをしていらっしゃる方に読んでほしい部分かもしれません。
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巻末の解説を作家の佐伯一麦さんが書いているのですが、ここを読んでいると何故か平山が思い浮かんでしまった。その部分の冒頭を書き出してみます。
"1990年10月31日に作者が86歳で亡くなった後、1992年に遺著として出された本書を単行本で読み終わったときに、私は、いい文章を読んだ、というよろこびに深々と浸った。
いい文章とはどんなものか。例えば、サマセット・モームが『要約すると』で、こんなふうに語っている。
「いい文章というものは、育ちのいい人の座談に似ているべきだと言われている。(略)礼儀を尊重し、自分の容姿に注意をはらい(そして、いい文章というものは、適当で、しかも控えめに着こなした人の衣服にも似ているべきだとも、言われているではないか)、真面目すぎもせず、つねに適度であり、『熱狂』を非難の眼で見なければならない。これが散文にはきわめてふさわしい土壌なのである」"
(引用終)
平山はトイレの清掃員をしながら東京の下町のアパートで一人暮らしをしています。そのアパートの部屋は極めてシンプルで、普段の服装もラフなシャツとパンツのみ。入浴シーンでは裸体が見られるのですが、体つきは結構おじいちゃんです。でも、服を着てるとさっぱり小綺麗に見える。仕事は真剣に取り組みつつ、どこの誰だか分からない者と⚪︎×のメモでやり取りしたり、小さな飲み屋のママに心惹かれて通ったり。真面目で寡黙だけど、人間らしい部分もあって、そのバランスがとっても魅力的でした。
これは映画の感想の方に書いても良かったんですが、平山は、何気ない生活の端々から、育ちの良さが滲み出ているんです。それがこの本を読んでいて、やっぱりそうだよね、という確信になりました。
他の2冊は読めていないのですが、もしかして、作中に登場している本から映画のヒントを得たり、人物像を組み立てているのかな?と、思ったりしました。
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『木』本編は文体が少し堅っ苦しくて読むのに苦労したんですが、解説に助けられました。久しぶりの読書、良き本に巡り逢えて嬉しかったです。
(終)