帰り道に珍しい人から着信があり、「いま電車だからごめん」と返す。久しぶりの連絡に思わず「緊急案件?」と続けた。
電車を乗り継いで最寄駅に着くまでだらだらと他愛もないやりとりが続いて、日付を超える頃に電車を降り、ようやく電話をかけた。久々に聞いたその人の声は想像通りのだらしなさで、懐かしさに少しだけ笑ってしまった気がする。
もう大学を卒業してから4年ほどが経っていて、かつての友人たちと会う頻度は段々と落ちているのは事実だ。自分が積極的に誘うタイプではないからこそ、というのも自覚している。月日が経てば経つほど環境も変わり、今までのように頻繁に会えなくなるだろうということは分かっているけれど、それでも今話したいなっていう気持ちが何よりも一番大事だから、と舌足らずの声で話すのを冷たい空気のなかで聞いていた。
この人のことが好きだったんだよなあと、会うたび話すたび自然に思い出す。もう昔のことだなあという気持ちも一緒に、どうしようもないなと幻滅したことも。それでもなぜか関係をシャットアウトできず今に至るのだけど、わたしはこの人に「話したいと思って」と言われることにひどく安心しているのではないかと気付いてしまった。だからまだ大丈夫だ、と何故か思ってしまう。最近また読み返していた『違国日記』の中で、クラスの頭いい子たちに嫌われたくないって思っちゃう、と主人公のクラスメイトが話しているシーンが思い出される。わたしはもう、きっと恋愛とか結婚とかの文脈からは随分遠く離れてしまっていて、戻りたいという願望すらない。それでも彼からの連絡がくると、かつての自分の眩い景色を思い出してはお守りのように握りしめている。