「うまい」しか言えなかったキリンビールのCMがまさかの…

一時期キリンビールはどの製品のCMでも、まるで壊れたレコードのように「うまい」というフレーズばかりを繰り返していた。本当にどのCMも「うまい」「うまい」の繰り返しで、それを言うタレントさんが違うだけという状況。一視聴者としてシンプルに怖かった。

確かに「うまい」ことは大事だけど、皆さん考えてみてくださいよ。逆に日本に "うまくないもの" ってなくないですか???うまいのは当たり前なんだから、私たち消費者は「何が違うのか」を聞きたいわけじゃないですか。まさか…キリンの人たちは「うまい」が他社との差別化要件になっていると思っている…ってコト!?

そっか、キリンは「うまい」しか言えない身体(からだ)になっちゃった…なっちゃったからにはもう…ネ……とてっきり思っていたのだが、今年2月から放映されている一番搾りの新CMを見て驚いた。

えっ「うまい」以外も言えるようになってるじゃ〜ん!!「(一番搾り麦汁だけでできているコストのかかる製法です)…それって、お得なビールじゃないですかぁ!」という今までのキリンさんでは考えられなかったフレーズや、"キリンがよかった頃世代" からの継承、日本料理の一番ダシを使った比喩などなど…「初手」感がある美味しさ訴求だけど、でもこれまで「うまい」しか言えない身体になってたことを考えたら!『義父と編』の家父長制感を強調するような女性陣の描き方とか令和とは思えなくてむちゃくちゃ気になるよ!なるけど!!キリンさんの底力!!!!家父長制感すご〜〜く気になるけど!!!!

…正直「10年前にやっておくべきだった内容な気がする」とは思うけれど、失われた10年(1998年のアサヒ逆転劇から考えれば失われた25年ですが)を巻き返すためにここで次の一歩を踏み出したキリンビール。一番搾りはロングライフブランドとして伊達じゃないと思いました。キリンさん好きだし、一番搾りがNo.1だった頃もよく知っている世代(当時まだ小学校低学年でしたけど)としてはとても嬉しい。

あと一番搾りに関することで個人的にずっと気になっているのはアイコン的な使われ方をしている雫のマーク。ビールのシズル感とはちょっと違う幾何学的な形だし、あまりビールらしい表現ではないような…?ちなみにあの雫マークは2009年からつくようになって、最初はフラットデザインだったのが2017年ごろからスキューモーフィックな見た目になり、さらに年々巨大化してる。下は1990年→2009年→2023年比較。

こんなに搾り汁の雫にこだわるということは、もしかしてキリンの人たちは「"一番搾り麦汁を使っている" ということが消費者に伝わってないのが問題だ」と思っているかも…?やっぱり、ちょっと心配。

@akirafukuoka
福岡陽(akirafukuka) NTTコミュニケーションズ デザインスタジオ KOEL 所属 ntt.com/lp/koel ブランドストラテジストとして「善いブランドを創る」ためブランド/ストーリーテリング/デザインを扱う仕事をしています。