ダジャレの力

『スプラトゥーン3』の6月のアップデートで「フルイドV」というブキが追加されることになった。

見事なネーミングだ。見た目から分かる通り「古井戸」からの着想であり、同時に英語の「fluid(液体)」ともかかっている。インクを打ち合うゲームで、水が湧き出る井戸をモチーフにポンプを弓の構造に見立てていること、ゲーム中で「ハイドロ」と呼ばれる企業が製造しているブキであることが噛み合っている。

ちなみに末尾の「V」は「5発の球が同時に発射される→ローマ数字の5」から来ているが、昭和な雰囲気がよく出ている(コンバトラーVは1976年放映、アリナミンVは1987年発売)。このブキはもしかするとハイドロ創業当初につくられていた、もしくはクラシックな自社製品から開発の着想を得たという設定かもしれない。またマイナーチェンジ版であるフルイドVカスタムはハイドロの社名ロゴが塗り直されていることにも注目したい。

ところで任天堂のゲームのネーミングにはダジャレや言葉遊びが多い。スプラトゥーンでは他にも「タラポートショッピングパーク」や「アジフライスタジアム」のような現実の企業名のパロディがうまくはまっている。マリオシリーズの敵キャラクターはノコノコ、ドッスンといった挙動のオノマトペ的な命名ルールだ。しずえさんはシーズー犬。厳密にいえば任天堂キャラではないが「フシギダネ」「ゲッコウガ」といったポケモンもいる。私が大好きなネーミングはルイージマンションに登場する「オヤ・マー博士」。マイペースでとぼけたキャラクターとマッチしたナイスネーミングである。

思えば「悪いマリオだからワリオ」というのも単純明快だが絶妙な居心地の悪さ、胡散臭さを感じる音で、親しみのあるマリオのパブリックイメージをうまく逆手に取っている。初出は悪役としての登場だったものの「ワリオ」というマリオと肩を並べる名前だったからこそ、ワリオを主役にした様々なスピンオフ作品が生まれたのではないか。例えば「バッドマリオ」とかだったらはこうはならなかっただろう。

初代メイドインワリオのパッケージ

クリエイティブにおいて、新しい組み合わせや突拍子もないアイデアが求められることは多い。自分で説明がつく範囲や手癖のついたパターンの範囲内では思考を狭めてしまう。ダジャレには音のつながりという「何の根拠のなさ」が世の中のロジックを超えた偶発性、セレンディピティを生じさせる可能性を秘めている。

何でも根拠を求められる社会だが、ダジャレはそこから少し自由な視点を得られる手法と思えばなかなかバカにできない発想法である。

@akirafukuoka
福岡陽(akirafukuka) NTTコミュニケーションズ デザインスタジオ KOEL 所属 ntt.com/lp/koel ブランドストラテジストとして「善いブランドを創る」ためブランド/ストーリーテリング/デザインを扱う仕事をしています。