眠りたいけど眠りたく無い。
眠りは幸福だ。という自論を昔から持っている。寝入るのに苦労しない気楽な体質だったし、悪夢も特定の条件下で眠らない限りは滅多に見ない。眠りを忌避する要素を私はおおよそ持っていないどころか、喜んで享受できるある種の才能を私は持っていた。
考えることが嫌いということ。頭に何かがあるのが不快で仕方がない。頭の中に詰まっているやらなければならないことや常に流れている曲を、眠りは全て溶かしてくれる。目を閉じて、それらと周りの環境がどろどろマーブル模様になって、気がついたら朝だ。どろどろに溶けたものがまた再結晶されて日常が始まる。大嫌いだ。でもまたとろけるためだと考えて、渋々動き出す。
稀に心の底から幸せだと感じる夢を見ることができること。夢の内容は幸せとは何も関連がない。一度目はだだっ広い駐車場から連れられて曖昧な白い病室で誰かを平静に看取る夢だったし、二度目は覚えてすらいない。起きた時に、泣いてしまうほどに幸福感に溢れていた。ただそれだけが共通だった。今までの人生の中で二度しか得られていない幸福だけれど、残りの人生をかけて追っているものの一つになっている。
今は、眠りたく無い。寝たら明日が来てしまう。就職、就職、就職。安寧な眠りが遠ざかってしまうイベントが来ている。退廃してしまえ労働なんて。世界が今劣り始めているんだ。私ぐらい幸福な夢を見ていたって何も変わらないだろう。
眠りたくない。でも眠らせてくれ