だから、作り話を。

ako_s
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公開:2025/10/31

 詩的。内省的。そんなものを考えているうちによく判らなくなった。前にも後ろにも白い壁。それらは私を冷たく見つめている。

 掌を返すように、突き放すように、厭に寒くなるこの季節から身を守るようにして早々と着るハイネックセーター。昼の暑さからどん底に誘い込むようにして冷える夜。華々しい光と凄惨な陰。現実は不寛容で不条理。しかし、その中に仄かなあたたかさを見出せる場所に居れるうちは人生捨てたもんでもない。ただ、私はそれに縋りすぎている。心底寂しいのだろう。

 紛らわせない悔しさと焦りの波打ち際に、不貞腐れて寝転んで、遠い星を眺めては、濡れた自分にも気づかないふりをする。凍てつく海水が耳腔に入ってきて、ようやく待ち望んでいた感覚。目眩。麻痺。

 目の奥に光。脳裏の手に取れない幻だけは私に希望を与えてくれる。ならば、目を逸らすことなどできない現実のその先に、私は意図的に幻を作り出し、それを自分にも傷ついた誰かにも触れられるようにしたい。

 私が嘘をつくのは、そうして小説を書くのは、救いのためだ。私のため、そして烏滸がましくも、私のような知らない誰かのため。

 真実と嘘は表裏一体。曖昧で、朧。しかし、もしそこに明確に境界があるとするならば、私は嘘や幻の世界に溺れながら、真実とやらを濡れた手であざとく触れてふやかしてしまいたい。

 全部溶けてしまえばいい。

 そんな、作り話を書いていきたい。

@ako_s
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