急な上り坂だ。
両手に持ったトレッキングポールを地面に突き刺して、足だけでなく両腕も使って這うように登っていく。
あまりにも斜面が急で、トレキングポールも滑るようになると、立木を掴んで、よじ登るようにして進んで行く。
ただし、急な斜面はそれほど続かない。10分ほどすると、緩やかな上り坂になって一息つく。
島の山は標高が低く、この辺りは海抜450mぐらい。林道の登り口で既に標高は340mぐらいあるので、たった110mぐらい登れば、もう稜線に出てしまうのだ。
稜線を10分ほど登ってから、南西側の湿度の高い森へと入っていく。
ここは緩やかに凹んだ盆地のようになった森だ。
湿度が高いため、苔むした大木には着生シダが至る所に着いて垂れ下がっている。
所々に、ポーッと光が差したような感じがあり、見ると!
そこには、まるでガラス細工のようなアマミエビネの花が白く光っている。
野生蘭の希少種で、奄美大島と請島にしかない固有種だ。
森にも様々なランクがあり
地面の乾いた、伐採された後の乾いた雑木林のような森もあれば、
湿度が高く自然の濃い森、上質な森というものもある。
「ヒメアリドオシという植物が生えていれば、そこは豊かな森だ」と亡くなったM先生が教えてくれた。
この森にはヒメアリドオシはもちろん、希少種のカンアオイや野生蘭が沢山生えていて、
ここが特別な森なのだと教えてくれる。
ほとんど人が訪れることのない秘密の花園
こんな生命の密度の濃い森に出会うとワクワクしてしまう。
ただ、今日はこの森をゆっくりと彷徨っている時間はない。
もう陽は傾き始めている。
ここからさらに川の方へ下り、あの谷を目指そう!