8月もそろそろ終わりが見えてきた。最近、よく映画を見ているせいか毎晩のように夢を見る。数日経てば夢の内容はほとんど忘れてしまうが、この間は銃を持った謎の集団(と言っても二人か三人)がいる空間から逃げ出すという夢を見た。ホラーが過ぎる。私の脳はどんな記憶を整理してるんだ。
そんな前置きはどうでもよくて、ずっと見たいと思っていた韓国映画をアマプラで見つけ、ようやく見ることができた。数年前に調べた時、レンタルでもサブスクでも見つけることができなかった『夜間飛行』。DVDが販売されていたかどうかは定かではないが、その頃は字幕も英語版しかなかったような記憶がある。その時点で見ることを諦めていたのだが、何本か映画を見た後で「あなたにおすすめの作品」として不意にこの映画が表示された。『Saltburn』と『赤と白とロイヤルブルー』見といて良かったなぁ。サンキュー、Amazonプライム。
前置きが長くなってしまったけれど、とても良い映画でした。素晴らしかった。決して明るい内容ではないし、つい最近見た『赤と白とロイヤルブルー』のように文句のないハッピーエンドでもない。差別やいじめといった重いテーマ、容赦ない暴力、学歴社会と成績以外のことはどうでもいい教師たち。主人公であるゲイの高校生・ヨンジュがノンケの友人・ギウンを好きになって、彼に歩み寄ろうとするというのが物語の軸なのだが、甘酸っぱい描写はほとんどなく、それどころか(特に序盤は)ヨンジュはギウンにずっと拒絶されている。見ていて苦しい場面の方が多いのに、それでもこの二人から目を離すことができなかった。
ヨンジュとゲイの友人(アプリで知り合った男の子で高校は別)が会っていた廃ビルには昔ゲイバーがあって、その店の名前が『夜間飛行』だった。それが作品のタイトルにもなっている。私はこの「夜間飛行」という言葉に引かれて映画を見たいと思ったのだ。そんなことをふと思い出した。
ネタバレになってしまうけれど、映画の最後の方でギウンがヨンジュを深く傷つけた(暴力に加えて性的な辱め)連中に対して怒りを爆発させるシーンがある。この感想が適切なのかはわからないが、ギウンが本当に格好良かった。ヨンジュが痛めつけられている場面を録画したメモリーカードを取り返すための行動で、止めに入った教師とか関係なくボコボコにして(教師陣にいい人はいないので特に同情はしない)、その本気さがギウンのヨンジュへの気持ちなのだなと心臓を掴まれる思いだった。
ラストシーン、入院しているギウン(メモリーカードを取り返したところで後ろから椅子で殴られて大怪我をした)のもとにヨンジュが訪ねてくる。ギウンから「メモリーカードはポケット中に入っている」と言われたヨンジュは、彼の上着の中から麗水行きのチケット(前に二人の会話の中で出てきた場所)二枚とメモリーカードを見つける。ヨンジュは泣きそうになりながらベッドに腰掛け、ギウンも体を起こして彼の隣に座る。メモリーカードのデータを消去し、ヨンジュは高校を自主退学してフリースクールに通う、そこには寮もあって……と話すが、ギウンが「行くな」という一言でそれを遮る。
「行きたくないよ。自分が壊れる気がする」とヨンジュが涙する。ギウンは「頼むよ。寂しいんだ」と言ってヨンジュの肩を抱く。
このやりとりでようやく二人が自分の心に(あるいは相手に対して)素直になれたのだと感じた。ギウンのヨンジュへの想いは恋愛感情ではないのだろうけど、彼が初めて口にした「寂しい」という言葉が全てだと思った。辛い環境にいる時、傍にいて欲しいと思った相手は家族やいい加減に付き合っている彼女ではなかった。ギウンにとって、それはヨンジュだった。
これまでも男性同士の恋愛を扱った映画をいくつか見てきましたが、個人的には友達以上恋人未満くらいの関係(いわゆるブロマンス)の方が好みかもという気がします。あと『夜間飛行』は映像も綺麗でした。特に夕暮れと夜の雰囲気が。他にも記事には書ききれないくらい印象的なシーンがたくさんあるので、興味がある方にはぜひ見ていただきたいと思います。
この映画を見る前、同じタイトルで書いた短編です。しれっと置いときます。