映画『カラオケ行こ!』

雨宮
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※この記事は『カラオケ行こ!』の映画及び漫画のネタバレを含みます。そして長いです。

映画の公開がもうすぐ終了すると知り、慌てて映画を観に行ってきた。率直と言うか、簡潔に感想を述べるとすれば「聡実君尊い……。え、狂児さんかっこ良。好き」である。ご清聴ありがとうございました、とここで終わってもいいのだが、それではあんまりなのでレビューではなくあくまでただの感想を書いていきたいと思います。

漫画に比べ、映画では聡実君の学生生活がより具体的に描かれていた。合唱部のシーンも多かったし、原作にはなかった聡実君の友達(「映画を見る部」?の部員)も登場。聡実君はそこの幽霊部員で合唱部と掛け持ちをしているという設定だった。何より映画は合唱部の後輩である和田君の存在感が大きかったと思う。削られたシーン(いちご狩りとか)や細かな変更と追加もいくつかあったけれど、大切な部分はきちんと押さえられていたので安心して見ることができた。

映画に追加されたシーンで印象的だったのは『紅』の歌詞の冒頭、英語の部分を聡実君が(関西弁で)和訳して狂児さんに教えてあげるという場面だ。漫画ではそれほど『紅』の歌詞の意味についてフォーカスされていなかったが、改めて和訳された歌詞を聞いてみると、原作のストーリーとリンクする部分があると気づかされた。漫画を読んでいた時はヤクザが『紅』を熱唱するという面白さとか、変声期を迎えた聡実君が激情のままに歌う曲として、ハイトーンで最初にシャウトする『紅』が選ばれたんだろうなぐらいにしか思っていなかったので、映画で加えられた新たな解釈は「なるほど……!」という感じだった。

もう一つ、映画のみのシーンとして、狂児さんが「聡実君は“聡い果実”やからな。大丈夫やろ」というセリフが頭に残っている。コミックの描き下ろしで触れられていた狂児さんの名前のエピソードが映画にも組み込まれていて、それを狂児さんが聡実君に話している(聡実君が「狂児」という名前が本名かどうか疑っていたので)というシーンだった。「聡い果実」という言葉に何だかぐっときてしまったんですよね。めっちゃいい名前。好き。

他にも狂児さんがカラオケ店に置き忘れた聡美君の傘をコミックの表紙絵のように彼に差し出すシーン(こっちは晴れた日というのも何かいい)とか、缶コーヒーを飲みながらビルの屋上で二人で話すシーン(気持ちが通じ合ったような、二人で笑い合う雰囲気が尊い)とか、原作にはないけれどいいなと思う場面がたくさんあった。というか、映画の二人はビジュアルが原作の二人とほぼ同じというわけでもないのに、そこにいるのは紛れもなく聡実君と狂児さんで、無条件で良い!と思ってしまっている自分がいたのは確かだ。

原作と同様、組員一人ひとりの歌を聡実君が批評するシーンはすごく面白かった。狂児役の綾野剛さんも含め、絶妙に下手な歌の再現度がすごい。キティちゃん恐怖症の人がチャンス大城さんだったので思わず声を出して笑ってしまいそうになった。実際の音になるとより輪郭がはっきりして、そこは映像化の良さだよなぁと思う。組員の方々、本当に個性的で楽しかったです。

ちょっとした感想を書くつもりだったのに長々と書いてしまっていますがもう少しだけ。コカイン星の宇宙人(元組員)に絡まれている聡実君を偶然通りかかった狂児さんが助けるという原作でも好きなシーンについて。漫画では軽めと言うか、そんなに思いっきり相手を殴っている感じの描写ではないが、映画では狂児さんが全力でアタッシュケースを振り下ろしていて「ちょ、全力ww」という笑いと共に、垣間見えた狂気に「やだ……カッコいい」という感情が同時に来て情緒が忙しかった。聡実君には優しいし、大声を上げることもほとんどない狂児さんなので、ちゃんとヤクザな部分が見られて良かったです(語彙力)。因みに、映画にはなかったけれど聡実君にかかりそうになった宇宙人の返り血を狂児さんが手のひらで防ぐという描写も好き。あれは漫画独特というか、実写では表現が難しいシーンだと思う。

ようやく終わりが見えて来ました。私が個人的に一番楽しみにしていた聡実君が『紅』を熱唱するシーン、素晴らしかったです。歌が上手いのはもちろん、変声期になって高音が出にくくなった聡実君の感じがとてもよく表現されていたと思う。後半で声が掠れていく感じとか特に。聡美役の齋藤潤君は元々歌が上手いのかな。それともボイストレーニングを受けたりしてめちゃくちゃ練習したのだろうか。どちらにせよ、歌声も本当に良かったし、歌に感情をぶつけながらも音程は外さず見事に歌い上げた姿を見てシンプルに感動しました。

そして本当のラストシーン。右腕に「聡実」の入れ墨を入れた狂児さんが電話で聡実君に「カラオケ行こ」と告げて映画が終わるのだが、スクリーンに映っているのがあえて狂児さん一人だけというのが良かったと思う。原作でカラオケ大会以来姿を見せなくなった狂児さんと聡実君が再会するのはそれから三年後、聡実君が高校を卒業してからのことなので、雰囲気が中学生のままだと少し不自然な気がするし。漫画では狂児さんとの思い出を高校の卒業文集に書いて、最後に少し思い出している場面がある。空港で二人が再開するシーンはすごく好きだけど、映画のサラッとした終わり方(エンドロール後のおまけ)も素敵でした。

中学生の聡美君が関わる大人と言えば、普通は親か先生、親戚ぐらいだと思うのですが、そのどれでもない狂児さんとの関係が何だかとても愛おしいと改めて感じました。私は限られた時間と条件の中に存在する、特別な人との関係性を描いた物語が大好きです。関係に名前が付けられない、それでもきっと一生忘れられない二人の数ヶ月を漫画でも映画でも見られて嬉しかった。映画『カラオケ行こ!』の感想は以上です。

いやー、長かった。長くなると思ってパソコンで記事を書き始めておいて良かったです。細かいことを言い出したら切りがないので割愛したつもりだったんですが、普段こんなふうに改めて感想を書くことがないので楽しくなってついつい長くなってしまいました。

最近、原作と映像化のための脚本について色々考えたことがあったので、正直モヤモヤした気持ちもあったんですが、映画『カラオケ行こ!』はそのモヤモヤを晴らしてくれるくらい面白かったです。少なくとも原作が蔑ろにされているとは感じなかったし、映画を素直に楽しめました。観に行って良かったです。

最後に映画の入場特典のポストカードとチケットの半券をスクラップしたノートの写真を載せておきます。このノートは大学生の頃からずっと使ってるんですが、まだページに余裕があるのでもっと映画を観に行きたいと思います。せっかくイオンカードの割引もあるんだし。

追記

映画を観に行った日、物凄く久しぶりにガストでモーニングを食べました。上映時間が丁度お昼時だったので、その前にしっかり朝食を食べておこうと思って。スクランブルエッグにケチャップをかけながら「そういや続編は『ファミレス行こ。』じゃん!」と思い出し、モーニングと言えばいつもは喫茶店なのにこの日はファミレスを選んだ自分を褒めてやりたい気分になりました。おしまい。

@amamiya
気軽に文章を書きたいだけなので特に目的はないです