過度の欲望を持たない、競わない、と人間が意識しても、社会で生活する限り、無意識への刺激は避けられないのではないだろうか。競わないと決めても、自己肯定の感覚が、気だるく下がっていきはしないだろうか。摑みどころのない、透明な不満が内面に漂う。
中村文則『列』より
新たに増えた積読本を一冊減らした。短い話なのであっさり読めたけれど内容は濃い、というか一筋縄ではいかない感じだった。パラレルワールド(的な世界)と現実が奇妙に重なり合う物語。鬱々とした雰囲気が中村さんの小説読んでるな〜という感じで実に良い。ずっと前からわかっていたことではあるが、人間は面倒な生き物だ。ホント嫌になるよね。でも、おそらくこの物語はバッドエンドではないのだと思う。
中村さんはいつも、あとがきに読者への感謝と「共に生きていきましょう」という言葉を添える。彼が書く小説は陰鬱なものばかり(明るい雰囲気の話って一つもなかった気がする。たぶん)なのに、読者に送る言葉は前向きだ。前向き……は少し違うのかな。現実がどうしようもないくらい終わっていることを認めた上で、どれだけ苦しくて辛くても「死んじゃえばいいよ」とは言わない。優しくて残酷だなと思う。この二つは同時に存在するのだ。イエモンも「春はなんか優しくて残酷」って歌ってたし。
もうすぐ春が来るのでのんびりと知らない町を散歩したい気分。寒暖差アレルギーにはなるけれど花粉症ではないので暖かな日々が待ち遠しい。