目覚めたら喉が渇いていた。台所で水をコップに注いでいると微かに音がする。衣擦れのような、ごく小さな何かを引っ掻くような、渇いた音。耳を頼りに探してみればそれはカタツムリが卵の殻を食べている音だった。
鳥と同じように、カタツムリにもカルシウムをあげなければならない。私のカタツムリははじめ5mmくらいだったのに最終的には5cmほどになったから、それだけ殻の材料が要るのだ。カタツムリは卵の殻についている薄皮は食べない。殻の部分だけをこそげるようにして食べるから、最後に蛹のように薄皮だけが残る。さりさり、さわさわと音を立てながら、みんなが寝静まった時間に。わたしは鼻息をたてないようにしてそれを見ていた。
ひととおり食べた後、卵から上体を持ち上げ、うんと高いところを目指すようにからだを尖らせ、くねらせた。窓からは透明な暗い夜が見えて、月の光に照らされたカタツムリのからだは魔術のように冷たく美しかった。