52. 太陽、夕立ち、聞きながら

アマヤドリ
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夏時間の初日、気持ちよく太陽の出た日だった。

カーテンを引き忘れていたので早く目覚め、マルシェで肉類だけを買い、昨日のおかずの残りであんかけ丼にして、彫金作業のコンコンを耳にしながら好きなだけ体を伸ばした。ゆらゆらと揺れながら体のこわばりを細かくほぐして、空気をいれて、またゆるめる。体の色んなポイントに色んな重力をかけて、小さな、または大きな部位で空間に絵を描きながら、呼吸とともに浮き上がったり急に矢を射て仕掛けたりもする。床は時にはさらさらと滑り、時には粘って遠い部位の動きを時間差で助ける。2つの関節をいっぺんに動かしたり、3つの関節をあえて逆に動かしたり、空気は水に、鋼鉄に、木の繊維になる。光がやってくればそれを聞き、でも没頭しすぎない。静かに見つめる目のまま、無数の跡を切り結んで、空白を飲む。

動きながらずいぶん読書が進んだ。『三体Ⅱ上』の半ばを過ぎたあたり。中国の名前や科学的な用語が音から漢字に変換することが難しいためオーディブルで読むのが難しいと思っていたけれど、順序のある作業と組み合わせてのながら聞きをしなければ大丈夫みたい。顔をどこかに固定せず本が読めるのはとてもいい。

窓が光って、立ち込めた雲のなかで低い音が行き来した。蓋をされた空を音が乱反射していつまでもくぐもって響いている。ミヒャエル・エンデのミノタウロスの話を思い出す。逃げられない残響のなか新しい光がひらめき、どとろきが駆け巡り、洗い流すような雨の音が加わる。