友人の新しい家には以前の住人が植えた植物があちこちに残っている。もう手入れもされていないが時期が来るとまた葉を出し花を咲かせるという繰り返しは続いている。レベッカ・ソルニットの『ウォークス』にそういう庭や畑のことが書いてあったなとふと思い出す。
重々しいコンクリートの銃座、バンカー、トンネルは農家のように消え去ることはない。しかし消え去った酪農家の家々も、野草の間から顔をのぞかせる園芸植物という生きた遺物を確かに残したのだ。
ー『ウォークス 歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット
新しい家はまだ手入れが始まったばかりなので住めない。バカンスごとに少しずつ工事をし、また次の休みに工事に戻る。そうして少しずつ仕上げていく。
家を去る時になって壁面に固く張り付いた薔薇が蕾をふくらませているのをみつけた。まだ固くて青かったが、来週にはほどけるだろう。これが咲くのを誰も見ないんだなと不思議な気持ちになったが、世界には誰にも見られないまま咲く花の方がうんと多い。