34. タイムカプセル

アマヤドリ
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年末の工事に引き続いて、今度は自宅の断熱工事に取りかかる。湿気や振動等の諸理由で壁の状態が悪くなっていたので少し手をかけてからペンキ塗りも。

こちらの建物は家主より長生きなことが多い。住人が変わるたびに何かしらの修復が行われ、その跡が残る。暖炉を外すとまだユーロではなくフランを使っていた頃の新聞が出てきたり、塗られたペンキの色が地層のように現れたり、100年以上前の凝った壁紙が出てきたりする。その都度これがいつの時代のもので、どんな人が住んでいたのか、その頃の周りの風景はどんなものだったろうと思いを馳せる。

だから自分が工事をするときにも未来の住人へのメッセージを残す。タイムカプセルみたいに。手紙や写真、新聞・雑誌、時代を象徴するようなもの、自分の好きなもの、とにかく掘り出した時に楽しそうなものを詰め込む。湿気等に負けないようにしっかり封をするのも忘れない。Sはいつも未来の人に向けてコンサートのお知らせをしている。50年後、100年後、いつこれが見つけられるかは分からないけれどもしその時にタイムマシーンがあったら来月のコンサートに来てね、一杯おごるよ。という感じで。(今のところコンサートに未来からのお客さんが来た様子はない。もしかしたら極秘で来ているかもしれないけれど)

壁の細かなヒビを全部けずって、やすりをかけ、パテを埋めて、乾かして、一度塗りをし、また乾かし、もう一度仕上げで下地を塗り、乾かして、やっとペンキを塗る(らしい。まだ一度塗りの段階)。ペンキを塗るって半日でできる仕事かと思われるけれど、プロフェッショナルはこんなに段階を踏む。断熱の方は壁に金属のバーを打ち、断熱材を入れ、ボードで塞ぎ、やはりパテで仕上げ…この先はペンキ仕事。

疲れるので終わるとぐったりしてしまうけれど、働いて、食べるために作って、食べて、汗を流して、洗濯する、というただ生活するだけのことで一日を満たすのも悪くないなと思う。

悪くないな、なんて不遜な言い方だな。恵まれてる。