四月になると金沢駅の掲示板に、北陸の桜便りが出されるという話を本で読んだことがある。ずいぶん昔のことだ。
「蕾かたし」に始まって「蕾ふくらむ」「ちらほら咲き」「三分咲き」「五分咲き」「満開近し」「満開」… 短い言葉で報告される花の命の初めから終わりまで。
その掲示板の実物を見たことはない。本の奥付を見ると、これは45年以上も前の話だ。
けれど、この話を読んで以来桜の季節になると、見知らぬ町の見知らぬ駅の掲示板に貼り出される桜便りのイメージが浮かぶ。おそらく今はもう、何処にもない掲示板。
「満開」になった後は駆け足のように「散りそめ」「落花さかん」 ─そして私が住む町では、今年もそろそろ幻の掲示板に「散りはて」と貼り出されるところだ。
また来年。