入りたい喫茶店があり、広い横断歩道を渡る。さっきまで車がたくさん行き交っていたのに今は霧に包まれたみたいに周りがよく見えず静かだ。
喫茶店に入りたい理由を聞かれる。わたしは「他の人がどんなものを作っているのか見たいから」と答えた。
横断歩道の向こう側には狭い庭のような空間があり、丸い窓が開いた壁が一枚立っている。向こうはよく見えないが庭園風になっているようだ。
ベンチに座り窓に手を伸ばすと、圧迫感というか、見えないものに押されているような、見えないグミに手を突っ込んでいるような感触がある。構わずそのまま手を伸ばしきり、目を閉じて頭から転がるように窓に入る。このままだと頭をぶつけるな、と思った一方でそんなことにはならないことを知っている。
ふと圧迫感がなくなり、ふわりと暖かい、無重力のような空間にいることに気づく。でもまだだ。目を閉じたままふわふわと身を任せていると、ふと尻の下に何かあるのを感じた。
目を開けると喫茶店の中二階、二人席の奥側に座っていた。向かいには妹がいて、先に何か食べていた。中二階には手すり側に二人席が三つ、窓側に四人席が三つあるが、窓側にあるのは人外のための席だ。
ふと鞄がないことに気づく。ベンチに座った時、離れた位置に置いたものだから一緒に転移してこれなかったのだ。わたしはどうにか鞄を手元に呼び出そうとするが、なかなかうまくいかない。
妹が一階に追加注文しに行っている間(こうもりというタイトルのタルトレットだった)、わたしは窓側の席に座る大きくて綺麗な白い狐に挨拶をした。何度か会ったことがある狐だった。赤い化粧をした彼(彼女?)は、たくさんの愛らしい小さな白狐をいつも連れている。
大きな狐はもうすぐ死ぬのだという。
狐は私の指に赤い三角の袋様のものをはめ、それは爪だという。狐火を使う源で、これが馴染めばわたしにも狐火が使えるようになるらしい。やがて爪が見えなくなる頃には指の先が暖かくなったように感じた。
妹が席に戻ってきて、妹には窓側の席は見えない、壁になっていると言う。目を凝らすと確かに小さな絵が描かれた布がかけられている壁が薄らと見える。
狐火の爪を使って、もう一度鞄を呼び出そうとする。指がかかった感触はあった。何度も試すうちに見かねた狐が助けてくれて、どうにか成功した。
一階に降りると、妹が店員と同じエプロンをつけようとしている。実家の薬屋で働くのが嫌なのでここで働くのだという。
じゃあわたしが継がなきゃいけないじゃん、というと薬屋を営む祖父母(非実在)が悲しそうな顔をした。