私はお兄さんに恋をしている。
お兄さんは優しくて、いつも私と遊んでくれる。ある日、二人でお祭りに行くことになった。何かを忘れている気がする。商店街では昼間から花火を上げている。
「花火だとわかっているから綺麗だなって思うんですよね」
「実は花火じゃなくて何かの爆発なのかもしれないよ」
お兄さんに手を引かれて、気づけばお祭りを外れて暗い道に出ていた。そこにあるのは、そう、お兄さんの家だ。歩いてきた方向からしてこんなところにあるはずないのに。それとも私が方向音痴になってしまったのだろうか。私がそのまま家に近づくと、お兄さんの手が私を引き止めた。
「やめたほうがいい」
「だってここお兄さんの家ですよね」
「君に教えたいことがあるんだ」
「どうしたんですか」
「君は僕が造った。君は小説の登場人物なんだ」
混乱した。
私が小説の登場人物? お兄さんが書いた小説の? ならお兄さんは何故ここにいるの? 何故私はこの人を好きになったの?
「僕は君が好きだ、だから君が僕を好きになる話を書いた」
「どうしてそんなこと言うんですか」
「僕は捨てた現実を拾おうと思う。君を現実に連れて行きたい」
「どうしてそんなこと言うんですか……」
「そこには君の親も友だちもいない、知っている場所もあまりない。でも、僕と来てくれないか」
お兄さんは熱に浮かされたように囁き続ける。彼は私の言葉を聞いていないようだった。考えてみれば物語のはじめからそうだった気がする。
何故この人を好きになったのか思い出せない。
私の気持ちは造られたものだったのか。
私の気持ちなんてものはそもそも無かったのか。
それでも私がこの人を好きなのは、この人が創造主だからなのか。