乾燥した荒野に低い塔がぽつんと立っていて、塔からせり出した部分から罪人の男が群集を見下ろしている。
ずるずるとした格好の子ども(に見える何か)が下からやってきて、肘をついてにやにや笑う。
「あんた死ぬよ」
知っている、と男は思う。
処刑されるのは怖いし、自分に咎はないと思っているが、もうどうしようもない。笑う子どもが鬱陶しくて、男は屋内に入った。
部屋には罪人の女がいる。二人はお互いを知らなかったが、同じ時に処刑されることになっていた。
女は男に背を向けて何かをいじっている。何してるんだ、と話しかけると、女は手元を見せた。彼女は剣を作っていた。よく見せてくれるよう頼み、それをためつすがめつしていると、女が突然、捨てろと叫んだ。
彼が手を離しながら振り返るのと同時に、女は身を低くし、男の耳の端を鋭いものがかすめた。さっきの子どもが短い湾刀を男の真後ろの壁に突き立てていた。
子どもは、あれぇ、と言いながら耳まで達しそうなほど口の端を吊り上げて笑っていた。男は心底恐ろしくなって、子どもの脇腹を腕で払いのけた。
混乱した頭で子どもの湾刀を壁から引き抜き、騒ぎを聞きつけた衛兵たちを斬りながら進んだ。彼らも同じ湾刀を使っていた。
馬を奪ってからは簡単だった。衛兵を踏み潰しながら二階へ戻り、群集を飛び越えた。逃げ遅れた二、三人の手足を踏んだ感触がした。後ろから司令官の声が聞こえた。
「構わん。始めろ」
男は真っ直ぐ馬を走らせた。方角も確かめないままだったが、とにかく逃げなくてはと思った。走り続けるうち、荒野は岩山へと変わっていった。
大きな岩をいくつも越えて、日が暮れはじめ、追っ手ももういないだろうと足を緩めた頃、岩の影から歌うような声が聴こえた。
「あなたは誰? こんなところまで、どこから来たの?」
男は、こんなに美しい声なら、きっとその主もそれは美しい女性に違いないと思った。彼は馬を降りて、彼女の姿を探した。
「私は最早誰でもない。あなたこそ、こんなところで何をしている?」
男が問いかけたところで目が覚めたので最近ネットで流行っているレインボーキャンディとかいう菓子を買いに近所の駄菓子屋まで行った。
暇そうな店主が正しい食べ方をレクチャーしてくれた。古いスピーカーから濁った音でポーリシュカポーレが流れていた。
もう一軒別の駄菓子屋に寄ってみたが、そちらには置いてなかった。