古い部屋の本棚に、少年が奇妙な形の鎖で厳重に繋がれている。丸まったまま動かず、鎖に被った埃の量などから死んでいるように思われた。しかし部屋の扉が軋みながら開くと、彼は緑の目をかっと見開いた。
入ってきたのは一人の老人だった。
「まあ待て」と老人は言った。「私はお前を出してやるために来たのだ」
老人は鍵ではなく、工具を駆使して少年の鎖を外し始めた。それで少年は大人しくなった。やがて右手の鎖が外れ、老人は少年に外した鎖の一部を彼の左手に乗せた。
「もっておれ。それはお前のものだ」
鋼鉄の鎖や金具に混ざって、花びらのような形の赤い金属の板や、歯車のような丸い部品が幾つか。少年は自由になった右手を見て驚いた。手が途中から機械になっている。彼の手に接続された鎖は、文字通り彼の体の一部となっていたのだ。
「…大分、記憶がない。今はいつだ? どれくらい経った。俺は904年生まれだ」
掠れて聞き取りづらい彼の言葉に、今度は老人が驚いた。
「…私も、904年生まれだ。今年60になった」
彼はひとりの妹以外に家族を持たなかった。異父兄妹で、あまり仲はよくなかった。
ある日、兄妹一緒に引き取りたいという老夫婦が現れ、二人は孤児院を出た。老夫婦は二人を分け隔てなく可愛がった。しかし妹は愛情をひとりじめしようと、狡猾な罠で老夫婦が兄を厭うように仕向けた。彼女はそれでも飽き足らずに、ある日、肥えた体をカウチからほとんど動かさずに言った。
「お兄さまの父親は、○○家の××。お兄さまは○○家の最後の一人なのです」
○○家が、老夫婦の因縁の相手だということを、妹は当然知っていた。